第10話
診察室には何故か私も入ることになった。由佳が望んだことだからだ。
「こ。怖い……彩未もついてきて」と青白い顔で懇願されたら断り切れない。確かにこの病院もこの似非くさい医者も怖い。多勢に無勢。我知らず小さくファインティングポーズを決めてるとその医者が「ぷっ」と小さく吹き出した。
バカにされたことが恥ずかしくて思わず顔を赤らめると
「おたく、可愛いね」と医者はカラカラと笑った。
か、可愛い!!
28年間言われたことのない言葉はきっと私に向けられたものではないだろうと思っていたが、バッチリと視線が合った。やっぱバカにされてる口だな。
診察室は病院の外観と違ってこざっぱりときれいだった。部屋の半分は分厚いカーテンが引いてあり、その中は見えなくなっている。内側は先生が座る椅子とカルテやらが散らばっているテーブル、そして一応反応はするのだろうこれまた古びたPCが一台。
由佳はたどたどしくその医師にこれまでの出来事を説明して
「ほーぉ、レイプねぇ」と医者はそれ程大事だと感じてないのか顎に手をやり目を細める。
あのぉ…もっと大げさな反応を期待?と言うか騒がれるかと思ってたけどこの人妙に冷静だし。
しかし『A』の名前が出た時、その太い眉が一瞬だけぴくりと動いたのは、気のせいかな……
「HPには安全なクラブっぽいことも書いてあったし大丈夫かなって思って」と加納くんは一生懸命説明している。
医師は考え込むように目を細め、ごつごつしたその大きな手は骨の太さが語っていてその手でどうやって繊細な診察ができるのかどうか不安だったけれど
「で?」と医師は聞いてきた。
質問の意図が分からず三人顔を合わせると
「お腹の子供はそのレイプ犯によるものなのか、それともそこの彼氏の子なのかって所だろう。君の……えーと
そう――――だった……
誰も今まで由佳の意思を聞いてなかった。
当然堕胎するものかと勝手に決めつけてたが。
由佳は子供のいるら辺のおなかをそっと押さえると
「私……
と、涙を流しながら訴えた。
医師はまたもふぅと太いため息を吐いて
「とりあえず妊娠何週目か調べないとな、診察するからあっちの扉から入って」とそっけなく指示。
由佳が言われた通り立ち上がり消えていくと、残された私と加納くんは思わず顔を合わせた。
「由佳がそう思ってくれたなんて―――」と加納くんが蚊の鳴くような声で言い出し今にも泣きだしそうに瞳を潤ませる。
「それが母性ってものじゃない?」知らないけど。今はそう答えるがのが精一杯。
私も由佳と同じ立場なら知坂の子供を産みたいって思うのかな。
分かんない。
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