第49話
その夜は変な夢を見ることなく気付いたら朝だった。
昨日、変な夢を見たくなくてウィスキーを飲んだからかな。
とは言っても今日のプレゼンの為控えめにしたけれど。
でも―――『葵さん』の夢を見なかったことに、そして真珠が転がってこなかったことに思いのほか安堵した。
――――
――
プレゼンは前回と同じ会議室で開かれた。
開発事業部と外食事業部の連中の面々も変わっていない。
彼らの提案は私が最初考えていた何の捻りもないものだった。
緑の木々に囲まれて、テーブルや椅子はウッディな仕様。敷地内に赤やピンクの薔薇の花をふんだんにあしらって。
ありきたりだな。まぁ私も最初はそう考えてたけど。
しかし営業部長と開発部長、外食事業部長は資料やスクリーンを見ても
「「「うーん」」」と唸っただけだった。
「ありきたりだな」と我が部の営業部長が呟いた。
開発事業部と外食事業部の連中は面白く無さそうに眉をひそめていた。
「残りは営業部ですね、どんな案があるんですか」と外食事業部の部長が私たち三人を眺めた。
営業部の代表である私が立ち上がった。
「はい、私はその店を今と現在が交わるお店にしようかと考え付きました」
「ほぉ、それはどう言う意味?」と今度は開発事業部の部長が顎に手を掛けた。
私は数日前に塩原と弓削くんに話した内容を若干の説明を加えて、参考資料に揃えた写真の数枚をスクリーンに映し出しながら丁寧に説明した。
「なるほど、写真館ですか」と開発事業部の部長が目をまばたいた。
「それは考えたな」と外食事業部の部長も顎に手をおく。
「異議あり!」と手を上げたのは開発事業部の一人だった。
「コンセプトと大きく離れています。自然と現代社会の共存共栄が題材ですよね」
今度はすぐさま塩原が手を上げた。
「昔は活気があった街を再現しようとしています。自然とはそう言う意味も込めてます。そして移りゆく時代は現代社会との融合を現しています」と塩原が立ち上がった。
塩原、ナイスアシスト!
そして弓削くんが援護射撃。
「緑や木々だけが自然じゃありません。広義の意味で”自然な”街並みの風景だってありじゃないですか。
青い薔薇も配合の繰り返しで品種改良されたものです。ハイブリッドの意味も兼ね備えてます」
「ふむ、面白い」と外食事業部の部長が頷いた。
「斬新なアイデアだ。それで行こうかと思いますが、お二方はどう思いますか?」と外食事業部の部長が我が部の部長と開発事業部の部長を仰ぎ見た。
「贔屓目じゃないが、私はなかなか面白いと思う」と我が部の部長がにっこり笑って
「私も異論がありません」と開発事業部の部長が頷いた。
勝った――――
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