第41話


乗車券は、XXバス停→△△バス停と書かれている。運転手さんの言う”悲恋坂”はこの区間にあるこの場所なのだろう。



しかし乗車券を見せた所で運転手さんは首を捻っただけで、詳しくは知らなさそうだった。



もっと話を聞きたかったが、何せ100年以上も前の話だ。



と言うことはこの乗車券は100年以上もの前のものなんだろうか。



だったら尚更何故、あの深夜バスに落ちていたのだろう。



これ以上は話を聞き出せそうにもない。



私はその話題に口を噤み、後は家までの道を黙って帰った。



翌日の休日、家でごろごろすることなく私は地元の図書館に足を運んだ。どうも、もやもやが離れない。



悲恋坂のことはネットに乗ってなかった。だったらローカル紙に頼る他ない。



古くからの図書館で古い新聞やこの辺一帯の歴史書なんかもたくさん置いてあった…のはいいけれど、流石に100年以上前の記事の新聞は置いてなかった。



とりあえず、XXバス停→△△バス停が存在するのかどうか歴史書で調べてみた。



確かに存在した。私の想像する通り区画整理とかで地名が変わっているだけで、その路線を走るバスも確かに存在していた。



歴史書を眺めるとモノクロの写真の中、今とは違ったそれなりに自然や人の往来があった。



100年前と言うと、ちょうど戦争が終わったところだ。



この頃、大正から昭和にかけて西洋文化の影響が大きかったようで当時の若者は洋服を着て街を闊歩していた。



古い写真館、喫茶店、小さな映画館。そこを行き交う人達はみな笑顔だった。そこには戦争の残像など微塵も見受けられなかった。



そんな平和な時代の切り替えの時、



いつから―――”悲恋坂”と謂われる所以になったのか。



昨日のタクシードライバーさんが言うからには100年以上前の不倫だと、今みたいなわけにはいかないだろう。軽い男女の遊び、という感覚ではない、そこには必死な愛があったに違いない。



それこそ二人で”死”を選ぶぐらい。






二人の”死”が街を変えてしまった―――……?





真剣に新聞や歴史書を調べていて、あっという間に半日を潰した。



私は……何をやってるんだか…



本来やるべきことは新しいカフェのコンセプト固めだ。



新聞と地元歴史書を閉じて小さくため息。



リセットするつもりでゆっくりと目を閉じ、深呼吸すると



古いインクが染みた紙の香り、ほんの僅かかび臭さも混じっているけれど決して不快ではない、図書館独特の香りが鼻孔の下をくぐり



私はゆっくり目を開いた。






これだ――――



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