第26話
それでも名指しされれば仕方ない。
私は手をあげながら立ち上がり
「はい、ラフランスは英字にすると”La France”。薔薇の品種でラフランスと言うものがあります。
薔薇には二つのオールド系ローズが存在し、その二つの品種を交雑したもの、そこから名付けられたのが”ハイブリッドティー”いわゆる、異種なる存在が交わること。
そしてハイブリッドティーの中には”La France”と言う品種があることから、わたくしは薔薇とラフランスの融合、また自然と現代社会の共存共栄を目指したカフェを新店舗のコンセプトとして推しているのか、と」
資料を見ずにスラスラ言葉が出るのは単に営業歴が長いからだけであって特別な能力なんかじゃない。誰でも営業を八年こなすとこうなる。
私が発言すると周りにどよめき(営業部の男子二名以外に)が走った。
何?訝しく思って眉を顰めると、向かい側の席に座った開発部と外食事業部の従業員がびくりと肩を震わせる。
パチパチ…
小さな拍手が起こって、開発事業部と外食事業部の部長二人が手を叩いていた。
「ね?我が社の営業は優秀でしょう?」と営業部長はどこか誇らし気だ。
てか、こんなの資料に目を通したらすぐ分かる筈なのに。
そこから話はプレ・オープンのセレモニーの流れになって、ようは三部署が手を取り合って、この企画を成功させましょう、と言うことだ。
会議は小一時間程で終わった。
良かった、これでスポーツクラブとの約束には充分余裕がある。
ほっとしていたところ、開発事業部と外食事業部の連中が帰りながら、まだ残っていた私たちをちらりと盗み見していて
「やっぱすげぇな”噂の”前川さん」
「凄いけど、何か見下されてる感じしない?」
「あー、分かる。最初、噂の前川さんだ、ラッキ!美人が来たって思ってたけど」
「俺、あの美脚が、脚を組み替える度そこばっか視線がいって集中できなかった」
「分かる!スカートから出た太ももとか?何気にちらっとカットソーから胸の谷間も見えたしな」
「何それ、自分が会議で目立てなかった言い訳でしょ。
それに営業部イチの成績とか聞くけど、あの顔と体を武器に枕営業してるんだって、絶対」
「まぁそうかもな。だからある意味”噂”のだよ、美人だけどキツい、冷たそうってアレ当たってんじゃん」
と、ひそひそ。
てか、噂話は本人のいないろころでしてよ。
うんざりして額に手を当てていると
「ちょっと…!」
と塩原が椅子をがたつかせて立ち上がった。
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