好きな人

――夜


ガチャ


部屋に戻れば、玄関に隆至の靴があった。

帰ってきている!

「ただいま」と言って玄関に入れば、「おかえり」と隆至が返事をしてくれた。



「隆至…」



 いつもの柔らかい話し方。

 今までの素っ気なさが嘘のように、笑顔が目の前にある。



「ご飯食べた?」


「適当に済ませてきたよ」


「ごめんね、遅くなっちゃって」


「平気」



 いつもの隆至の表情だ。

 つい先日までの、雰囲気が悪かった2人の空気とはまるで違う。


 ――と、思っていたけど。



「この荷物、どうしたの…?」



 隆至が座るソファーの死角に、隆至がいつも出張の時に使っていたスーツケースと旅行カバンが置いてあった。



「沙彩。話が…あるんだ」



 あ…

 この表情、見覚えがある。

 私が誰かと付き合うと、最後に必ずこういう顔をするんだ。だから何を言おうとしているのか、判る。



「沙彩、ごめん。俺――」


「嫌だ!」


「沙彩…」


「ヤダッ」



 分かってる。

 分かってるよ…。

 私がわがままを言ってる事。



「他に好きな人が、出来た」


「…っ」

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