温度差

 お風呂に入った隆至はそのまま寝てしまったようだ。



「もう…」



 食器を洗って片付けた後、ソファーに置いたままのスーツを手に取る。



「…、え?」



 いつもと、違う香り…?

 

 隆至のスーツからは、いつも好んで付ける香水とは違った香りが混ざっていた。

 最悪な事が頭をよぎるけど、お客さんかもしれないし、取引先の相手かもしれないし。

 疑わないよう、変な考えをした自分を戒めた。


 ――土曜の朝


 週末は留守にするために今まで手抜きをしてしまっていた分、しっかり掃除機をかけていた。

 念入りに、隅々まで。

 納得のいく綺麗さに満足して、コーヒーを入れたところで隆至が起きてきた。



「おはよ。コーヒー飲む?」


「あー…、飲む」



 ブラック派の隆至に、大きめのマグカップに注いで渡す。



「今日は久し振りに予定もないし、どこか出かける?」


「ごめん、仕事詰まってるから一度会社に行って来る」


「…そっか。残念」



 この温度差はなんだろうか…。

 昨日のスーツの香りに、思い出したように嫌な考えがまた頭を過る。

「じゃ、行って来る」と、半分以上コーヒーが残されたマグカップを台所に置くと、そのまま隆至は出かけて行った。

「ハァ」と溜息を吐くと、私の携帯の着信音が鳴り響いた。

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