第12話




考えるとかそんな余裕ねぇんじゃないの?



うかうかしてっと、柏木さんなんて誰かにあっさり捕られちまう。



大体、いつでもがんがん攻める俺に、考えるなんて性に合わないんだ。



そんなことを考えながらエレベーターを待っていると、ふいに扉が開いた。



「あ。お疲れ様です」



中に居た綾子が妙にかしこまって俺に頭を下げた。



何だよ、いつになくかしこまって…



「お疲れ~」



と言って、綾子の後ろを見て、俺は表情を歪めた。





何で”こいつ”と鉢合わせる?



「ご苦労さま」



綾子の背後に居る男が少しだけニヒルに笑った。



「……お疲れ様でございます」



俺はわざとバカ丁寧に言うと、ぺこりと一礼してエレベーターに乗り込んだ。



綾子の横に並び、男の前に立つ。



背中を向けていても分かる、俺とほぼ同じ身長の気配を。



髪はいつもきっちりオールバックにセットしてあって、染めてるのか地毛なのか一房銀色のラインが入っている。



髪と同じぐらいきっちり整えた口ひげをたくわえ、着ているものはイタリアのオーダーメイド高級スーツ。



頭のてっぺんからつま先まで嫌味な奴だ。



おまけに声も渋い。



今年55だってのに、俺より元気そうで何より紳士てき。





俺は





こいつが苦手だ。



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