第44話 努力のぶつかり合い

「ユピテル英才学園の皆様、ようやく集計が終わりました」


 いつも以上に気合の入った丁寧な口調で、タイフーン先生が言った。

 ここは会長だとやばいだろう。


 今回、例の包帯男の脅威のせいで、規模は少しだけ小さくなっているベストウォーリアートーナメント。


 ユピテル英才学園の関係者──つまりは先生、生徒しか、参加することができない。

 客席にもそれだけだ。

 まあ、この学園のいいところは、生徒たち、教職員たちだけでもかなりの数いるってことだな。


「リードくん、ここからはまた頼んだ」


「はーい! 了解です! 変わりました、生徒会長でーす! 10ペア以上の熱い対戦、ベスト3の発表しまーす! みんなちゃーんと聞いててね!」


 ダダダダダダダ。


 ここはさすがの演奏クラブ。

 効果音のタイミングをわかっている。これはどこの世界でも共通したことだな。


「第3位、ルシファー&ドラコのペア! おめでとー!」


「第2位、ロビン&レイブンのペア! こちらもやったね! そしてー、惜しー」


 と言いながらも、全然惜しい雰囲気出してない。

 3位のペアも、2位のペアも上位に入ったことは嬉しいのかもしれないが、本当は1位を狙っていたんだろう。悔し涙も見えた。


「お待ちかねの、第1位は──」


 少し離れたところにいるゲイルと、目が合った。


 これは行ける。


 ゲイルの目には自信が浮かんでいる。揺るぎない自信。

 それは圧倒的な練習量から生まれる、最強の武器だ。


「エリートクラスの、ゲイル&ハローのペア! やっぱりすごかったなー、おいらは特に最後のところが──」


 それからの会長の熱意のこもった感想コーナーは長すぎた。

 

 それだけ生徒思いなところは伝わったが、早く終われ、というやじの声も聞こえる。


「リードくん、それくらいに。今回はゲイル&ハロー、本当におおめでとう。ふたりの──いや、全員のおかげで素晴らしい前夜祭だったよ。明日の本戦も、この調子をさらに上げていこう!」



 ***



 あのあとはゲイルたちと合流して、近くの食べ物屋台(ベストウォーリアートーナメント特別)で一緒に夜ご飯を食べた。


 これで勢いづいた俺たちだが、今度はルミナスが気になってしかたない。


「オーマイガー、なんでルミナスなんか気にすんだ? ほんとに体調悪いなら、すぐに養護の先生のところにでも行くだろ。でも行かないってことは、よほど我慢強いやつか、ただのバカかのどっちかだな」


 ゲイルは、ルミナスのことに関してはまったく話をしてくれない。


 というか、あんまりルミナスの話をしたくなさそうだ。

 このトーナメント、あんまり周囲のことまで考えない、と自分なりに割り切っているのか? それとも、俺が単に気にし過ぎなだけか?


「気にすんな、ジャック。今日ぐっすり寝てよくなるだろうよ」


 ちなみに、リリーとハローちゃんも一緒にご飯を食べている。

 ふたりの間の気まずさがなんとも言えない。



 ***



 前夜祭も過ぎ、ベストウォーリアートーナメント当日。


 昨日のお祭りムードとは打って変わって、生徒ひとりひとりが本気モードだ。

 気楽にだらけているやるもいるが、それは例外的。さほどやる気のないやつ以外、生徒たちは自分が結果を出すこと、つまり優勝することをイメージしてピリピリしていた。


 俺だって、絶対優勝するつもりだ。


「レディース&ジェントルメン! 今日、この闘技場には、1年で最も強く、熱い風が吹いている。それぞれの優勝への思いがぶつかる大決闘! 対戦表はあらかじめ配っておいたから、各自確認するように。じゃあまずは、同時並行で1回戦に進もう!」


 優遇されているゲイルやハローちゃんとは違い、俺は普通に1回戦からのスタートだ。

 別にそれが不利だとは思わない。

 いい準備運動になりそうだ。


 最初の相手はネクストクラスの女子だった。


 彼女には悪いが、開始5秒で瞬殺した。


 他の誰よりも早く、2回戦進出が決定した生徒──それが俺だ。


 今思えば、こうやって自分の実力を確実に出せているのが不思議だ。

 前世では、どれだけ頑張っても、その努力が報われることはなかった。


 俺の努力は間違っていたのか?


 まだ努力が足りないのか?


 運は味方についてなどくれない……。


 まわりよりも上に行こうと絶対的な時間では誰にも負けないほど、ずっと勉強した。ずっと運動した。

 それなのに、結果が出なかった過去。


 その繰り返しは自信を失わせるわけでなく、努力しても無駄だ、なんていう思考にまでつながった。


 今はどうか。

 この異世界で、スキルに恵まれたことは幸運だったが、そのスキルを使いこなすための努力は欠かさず行ってきた。それに、この戦いに挑むまでの過程で、どれだけ努力したことか……その努力と努力がぶつかり、結局はお互いに高め合っていく。


 この学園はそんなところだ。

 俺はそんな素晴らしい学園のトップを目指している。


 もう迷いはなかった。

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