第20話 アクロバットダンスのお相手!?

 ベストウォーリアートーナメント。

 長い横文字でわかりにくいかもしれないが、これはユピテル英才学園で1番大きな大会のことだ。


 有名な名門校とだけあって、その大会には多くの国民が訪れる。


 オリンピックみたいなものだと思ってくれた方がわかりやすいだろう。


「おもしれぇじゃねーか! オレが1位になってやる! ジャックのはるか上を──」


「静粛に」


 叫び出したブレイズを、先生が一瞬で黙らせる。

 厳しい。


 俺たちの担任はこの学園の中でも厳しい分類に入る。


 その分、さっきみたいに「感心」されると達成感があるのも事実。

 実力のある先生で、ほとんどのクラスメイトが尊敬している存在だ。


吾輩わがはいが話している途中だ、バーニング。口を挟むでない。その意気込みはよいが、礼儀も学べ。大会では礼儀正しく、ウォーリアーシップに従って戦ってもらう」


 ウォーリアーシップっていうのは、戦士の心得。

 スポーツ選手のスポーツマンシップと同じだ。


「質問をしてもよろしいでしょうか、イーグルアイ先生」


 穏やかかつ、しなやかな声が聞こえた。


 推薦入学者で、今回のテストでも上位、絶世の美女とも称されるヴィーナス・エレガントだ。

 まっすぐ、そして優雅に挙手している。


 先生が頷いた。


「よろしい」


「トーナメントが開催されるのはまだまだ先のことではないのでしょうか? わたくし、数年前から毎年観客として観に来ていたのですが、毎年冬に開催されるはずではないかと……」


 今は夏。


 確かに冬に向けて今から準備するのは、さすがに早過ぎるような気もする。


「効果的な質問だ。例年はエレガントの指摘の通り、冬に行っている。しかしながら、今年は例外的だ。冬にはまた別のイベントを用意している。そのため、この大会が夏開催へと変更になったのだ」


「そういうことだったのですね。ありがとうございます」


 さすがはエレガント。

 聞いていて気持ちがいい。


「大会はおよそ1か月後の8月28日。各自訓練に励み、最高の結果を出してもらいたい。そして──」


 イーグルアイ先生の目が光る。


「──吾輩のクラスであるからには、優秀な結果、観客を動かす戦いを見せてほしい。ホームルームは以上だ。提出物がある者はただちに持ってくるように。吾輩はゆっくり待ってあげられるほど暇ではない」



 ***



 授業開始の鐘が鳴る。

 友達と楽しく話していた生徒たちも、この音で授業モードに切り替わった。


 最初の授業はアクロバット学。


 普段はアクロバット室でするのに、今日は教室にいたままで、という指示を受けていた。

 そう、アクロバット教師のウィンド・タイフーン先生から。


「試験はいい成績だったようだね。ボクも剣術とアクロバットの監督をして、キミたちの風を感じたよ。ゴーっと来る風だった!」


 相変わらずマーリーンが嬉しそうにしている。


 タイフーン先生が教室に入ってきた瞬間、身の毛がよだつほどの風が教室全体を駆け抜けた。

 先生のテンションが上がっているということだ。


「特に圧倒的ナンバー1、ジャックくんには感心した。これからは授業でも、その実力を見せてくれよ」

 

 そういえばそうだ。


 俺は今まで授業では手を抜いていた。

 というと少し聞こえが悪いが、本気でやらなかったのは本当だ。


 目立つことに興味はなかったし、自分の秘密について悟られないためにはそれもまた必要だろうと思っていたからだ。


 だが、それは自分に対する言いわけだったと知った。

 甘えだった。


 全力で俺に挑んでくるライバルがいるんだったら、それに応えることが礼儀ってことだ。


「はい」


 俺ははっきりと、そう返事をした。


「うんうん、それでこそトップ! 頼もしいねぇ。じゃあ、ジャックくんに拍手!」


 タイフーン先生のひとことで、クラスのみんなからの拍手を浴びることになった。


 今回、まさかのブレイズも拍手している。

 眉間にしわを寄せているものの、納得している拍手らしい。


 フロスト(本人がフロストと呼ぶように言ってきた)にいたっては尊敬の目を輝かせながら、誰よりも大きな拍手をしていた。


 で、ルミナス。

 彼も少し笑顔は引きつっていたが、ここで拍手しなければ周囲から浮いてしまうことを考えたのか、小さく拍手していた。


「ひゅーひゅー、ジャック、やるぜ!」


 ゲイルはこの通り。


 相変わらず騒がしい。


「なかなか気合いのこもった拍手じゃないか。いい風だ! そして、ボクは言わなくてはならない。この風を止めることにはなるけど、伝えたくてはならないんだ……」


 タイフーン先生の声がいつもより落ち着いた。

 これは何か深刻な伝達があることの予兆。


 騒がしかったクラスが、一気に緊張感のあるクラスへと変わる。


 そんなに深刻なことなのか?

 タイフーン先生の心の中はまるで読めない。真剣な顔してジョークを言うこともあるし、笑いながら大事な話をするときもある。だが、この落ち着きはかなり重要な話であることに間違いは──。


「……ベストウォーリアートーナメントでの、アクロバットダンスのパートナーを決めてもらうことになった! これだよ! だから今回の授業は教室なんだ! パートナーは必ず異性と組むこと! 青春しよう、勉強ばっかりじゃなくてさ!」


 クラスメイトのほぼ全員が発狂した。


 異性とパートナーだと!?


 喜んでいる者もいれば、絶望している者も、参加する意欲なんてなさそうな者もいる。


「最高だよ! 女子とイチャイチャできるよ! ヴィーナス様と手をつなぎたいよー!」


 誰のセリフかはわかるはずだ。

 

「オーマイガー、これが──これが何より楽しみだったんだーーーーー!」


「あんだと? オレにへらへら遊んでる暇ぁねーんだよ!」


 はぁ。

 タイフーン先生、やってくれたな……。


「そうそう、大事なことだけど、これ、絶対参加しないと単位が取れないらしい。さらには、素晴らしいアクロバットダンスをした3ペア──つまり6名には、トーナメント本戦での対戦相手選択権が与えられる! ちなみに1回だけ。やっぱりいい風だ、このクラスは!」


「やっぱりやってやろーじゃねーか! やるからにはオレが1位になってやる!」

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