私が一番あなたの傍に…

和泉 花奈(いずみ はな)

1章:いきなりピンチ?!新しいアルバイトを…?

第1話

晴れて私達は恋人同士となり、無事に大学二年生にもなった。

でも、私達の平穏な時は、終わりを告げようとしていた。

それはある日のこと。蒼空とはあれから連絡を取っていなかったが、突然、蒼空から連絡がきた。

どうやら蒼空は、私のことを心配して連絡してくれたみたいだ。

そしてついでに、“幸奈って今、アルバイトしてるか?”…と聞かれ、返事を忘れていたら、蒼空から電話がかかってきた。


「俺のバイト先、人手が足りなくて。アルバイト募集中なんだけど、そういや幸奈ってアルバイトしてるか聞いてなかったなと思って、聞いてみたんだ。

もしかして、もうどこかでバイトしてたりする?」


そろそろ本格的にアルバイトを探そうかと考えていたので、このタイミングで紹介してもらえてラッキーだと思った。


「今はアルバイトしてないよ。少し前に辞めちゃったの。

蒼空はどんなアルバイトをしてるの?少し話を聞かせてもらってもいい?」


私がそう聞き返すと、蒼空は丁寧に答えてくれた。


「本屋とカフェが合体してる店なんだけど、俺は裏方で働いてるんだ。

ちなみに募集してるのはホールなんだけど、幸奈は接客は大丈夫か?」


一応、前のアルバイトが接客業だったため、接客経験はある。

でも、飲食店は初めてなので、不安はある。


「前のアルバイトがコンビニだったから、できなくはないと思うけど…」


「本当か?なら助かる。よかったら、うちでバイトしてみないか?」


興味はあるが、不安な気持ちもある。

自分の想いを素直に伝えてみることにした。


「蒼空、待って。私、飲食店での経験がないから、上手く注文した食べ物とか飲み物を運べるか不安…」


「うちのお店は、注文した品を運ぶことはないよ。カウンター形式だから。

一応、業務内容としては、注文の受け答えと、あとはコーヒーが作れるようになれれば問題ないかな」


運ぶことはないという不安は消えたが、新たな問題が浮上した。

コーヒーが上手く作れるか不安だ。


「俺は幸奈を信用してるから、誘ってるんだけど。

やりたくなければやりたくないって、はっきり断ってくれ」


カフェのアルバイトは少し憧れていた。

やってみたいという思いが、芽生え始める。


「働く条件をもっと詳しく教えてもらってもいいかな?時給とか、待遇とか、教えてもらえると助かる。

それを聞いた上で返事がしたいんだけど、聞かせてもらってもいいかな?」


その後、蒼空から詳細を説明してもらい、話を聞いた上でやってみたいと思った。


「幸奈、どうだ?やってみないか?」


「やりたい!面接受けたいです!」


「分かった。俺から店長に話を通しておくから、後で詳しいことは連絡する。それじゃ、またな」


そこで一旦、電話は切れた。まだ知り合って間もないのに、自分にここまで親切にしてくれるなんて、心優しい人だなと感心した。

カフェでアルバイトができるかもしれないと浮かれていたら、バイトを終えた愁が私の家うちへ帰ってきた。


「ただいま。疲れた…」


「お疲れ様。ゆっくり休んでね」


「やっと終わった…。幸奈に早く会いたくて頑張った」


愁は完全に甘えモードに突入している。

こうなった愁は、なかなか離れてくれない。


「はいはい。私も早く愁が終わるのを待ってたよ。

でも、その前にお風呂へ早く入ってほしいな。お願い…?」


頑張って上目遣いでアピールした。

卑怯と言われても構わない。彼氏に何としてでも早くお風呂へ入ってほしいため、手段は選ばない。


「その目と声はズルいな。分かった。入るよ…」


渋々お風呂へと、愁は入ってくれた。

愁がお風呂に浸かっている間、愁が帰ってくるまでの間、作っておいた料理を温めておいた。

料理を温めながら、どのタイミングでアルバイトのことと、蒼空のことを話そうか悩んでいた。

早く話さないと拗れてしまいそうなので、今すぐにでも話してみることにした。


「ふぅ…。いいお湯だった…」


そうこうしているうちに、愁がお風呂から出てきた。

まだ心の準備はできていないが、今話さないと、あとで蒼空の存在を知った時の愁が怖い。


「しゅ、愁、火使ってるから危ないよ?」


料理を温めている最中に、愁にバックハグをされ、心臓が飛び跳ねた。


「そんなのダーメ。関係ない。今は幸奈に甘えてもいい時間だから」


「もう分かったよ。仕方ないな。抱きついててもいいから、少しだけ手伝ってね」


話すタイミングを見失ってしまった。

もし話すタイミングを間違えでもしたら、愁の機嫌が悪くなり、アルバイトができるかどうかも怪しい。

もし、そうなった時は、断りの連絡だけでも入れよう。彼氏が嫉妬して…とでも説明をして。

なんてことを頭の中で考えていたら、思わぬハプニングが起きてしまった。


「幸奈、携帯鳴ってるぞ?」


テーブルの上に置いてある、私の携帯が鳴り響いていた。

この着信音は間違いなく電話だ。急ぎの用事かもしれないと思い、手が空いていなかったため、愁に取ってもらうことにした。


「愁、悪いんだけど、手が話せないから、代わりに私の携帯を取ってきてくれない?」


「いいよ。幸奈のためなら」


すんなり言うことを聞いてくれた。

…なんて思ったのも束の間、すっかり私は忘れていた。あの人の存在を。


「……幸奈、コイツ誰?」


「えっと…、どこから説明したらいいのやら……」


頭が困惑していた。上手く説明しようと思えば思うほど、言葉に詰まる。

やましいことは何一つないし、していない。

でも、心の中のどこかで罪悪感を感じている自分がいた。

やっぱりアルバイトのこと、断るべきだよね?他の男性に紹介されたアルバイト先で働くなんて、嫌に違いない。

自分がもし、逆の立場だったら、嫌な気持ちになる。

だから、ササッと関係を説明して、アルバイトのことは断ろう。

そして、彼氏ができたことも報告しよう。よし、そうしよう。


「ふーん。別にいいけど」


私が歯切れを悪くしたため、愁の機嫌を損ねてしまった。

誤解してほしくないため、ちゃんと説明することにした。


「待って。ちゃんと話を聞いて。その人は蒼空そらって言って。えっと…」


付き合う前とはいえども、合コンに行ったなんて言ったら、どう思うだろうか。

少し怖いけど、勇気を持って言うことにした。

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