消えていた筆箱
第39話
――俺は日直当番で、放課後に担任から受け取った学年だよりを教室後方の掲示板に張り替えていた。
教室は夕日が差し込んでいる。室内は3〜4人程しか生徒が残っていない。廊下から届く声も、時と共に引いていく。
ロッカーの上にのぼって作業をしていると、その隣の掃除道具入れの上に何かが乗っかっていることに気づいた。そのまま足を横に進めてその何かを手に取ると、それがデニム生地の筆箱ということが判明する。
「あれ? これって、もしかして矢島が無くしたって言ってた筆箱じゃ……」
中身を確認してみたけど、筆箱や筆記用具に名前は書いていない。だから、本人に届けられなかったのだろう。
そう言えば、この筆箱に人に見られたくないものが入ってると言ってたけど何だろう。本人は見られたくない様子だったけど。
ファスナーを開けて中を確認すると、シャープペンが三本、赤ペンが一本、青ペンが一本、定規が一本、消しゴムが入っている。
筆箱の裏側を見ても人に見られたくないようなものは何一つ入っていない。
どうして俺にそんなことを言ったんだろうと思いながらファスナーを閉じていると、中の消しゴムだけがコロッと床に転がっていった。
「やっべ。消しゴム無くしたらまずいよな。矢島に返さなきゃいけないのに」
俺はロッカーの上から降りて、すぐ傍のイスの下に落ちた消しゴムを拾い上げようとすると、消しゴム本体はケースから外れていた。
しかし、その消しゴム本体になにか書いてあると思って拾い上げて見てみると、そこには一つの相合い傘が描かれていた。
「ははっ。人に見られたくないものって、矢島と俺の相合い傘が書かれた消しゴムのことを言ってんのかよ。小学生じゃないのにこんなガキみたいなマネして……」
しかし、この筆箱を無くしたのは偽恋人になる前。つまり、沙理と付き合ってる頃から俺に想いを寄せていたという証拠になっている。
あいつは本当に俺の幸せを願ってたんだ。でも自分は、矢島のことをただのクラスメイト程度しか思ってなかったのに。
でもその後、彼女の優しさに甘えて都合のいいように利用していた。あいつの気持ちを一切考えぬまま……。
確かにミキに会いに行ったのはお節介だと思っているけど、それは俺のことを心配をしてたから。いつも俺を一番に想ってくれてるのに、自分は今日まで何一つ応えてあげていない。
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