第60話

今日はバイトの定休日。

フリーターとはいえ、なるべく平日に丸一日の休みを入れるようにしている。


先週の休みの日はサヤとデートをしたけど、今日はどうしても行きたい所がある。


そこは……。




「激安スーパー……ですか」


「そ、毎週このスーパーで目玉商品を目的に来てるんだ。今日の予算は2000円。1時間毎にタイムセールの店内アナウンスが流れるから聞き逃さないようにね」




俺達は自宅から徒歩45分の距離にある激安スーパーのパーテーションで仕切られている列に開店前から並んだ。




「わかりましたけど……。列の前後を見ても主婦や高齢者しかいませんね」


「年齢は関係ない。店の中に入ったら大運動会が始まるから覚悟してね」



「えっ、それはどういう意味ですか」




と、サヤがそう問いかけた瞬間…。

激安スーパー運動会は開幕した。



店の扉が開かれたと同時に、川の流れのように人が店内へとドッと流れ込んでいく。

沙耶香は身動きが取れず意志とは関係ない方向に吸い込まれていくと不安に溺れた。




「颯斗さん! 人の流れが急過ぎて迷子になりそうです」


「運動会の入場行進だと思って我慢して。いま一世帯一点限りの5円のもやしを二袋取ってくるから、先にパン売り場で待ってて」




俺は流れに身を任せてはぐれ気味のサヤにそう伝えたが、サヤは波に押し流されながらも不服そうな目を向ける。




「サヤはいま一世帯です。颯斗さんと一緒に暮らしてるじゃないですか。だからサヤ達のもやしは一袋です」


「ばっ、バカ……。問題はそこじゃない。別会計にすれば二袋買えるだろ。10円で二袋だよ? こんな安いもやしをゲットするチャンスは今しかないから」



「でも、一緒に暮らしてるのに……」




サヤと一緒に買い物に来たところまでは良かったけど、愛が邪魔して気持ちがバラバラに。

俺は思い通りにいかない現実に頭を抱えた。




「とりあえずパン売り場の前で待ってて。いまもやしを二袋ゲットしてくるから」


「颯斗さん、パン売り場って何処ですか? サヤはスーパーに来るのが初めてなんです」



「店の入り口からすぐ左んとこ。流れから外れれば辿り着けるから」




沙耶香は生まれて初めての人混みでもみくちゃになりながらも、とりあえずパン売り場を目指して歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る