第41話

翌朝、颯斗は沙耶香よりも先に目を覚まして身体を起こす。




隣で眠るメガネなしのサヤ。

生意気な性格を忘れてしまうくらい天使のような寝顔。

新天地の慣れない生活に加えて、前日のアルバイトの疲れが残っているようだった。


あまりにも気持ち良さそうに眠っているからこのまま寝かせてあげたかったけど、目が覚めた時に一人だと気付いたらかわいそうだと思い、身体を揺すって起こした。




「サヤ……、起きて」


「ん……んんっ……、だから……コーヒー牛乳の自販機を……むにゃむにゃ……」




何故か寝言が可愛かったりもする。




それから15分後、二人で台所へ。

俺は彼女の希望通り恋人らしさを味わう為にエプロンを装着してあげた。

背中でエプロンの紐を蝶々結びにしてキュッと締め上げて言う。




「今日は目玉焼きに挑戦してみよう」


「サヤに出来ますかね」



「誰にでも出来るから心配しないで」




勿論、嫌味で言った訳じゃない。

ほんの少しハードルを下げただけ。




颯斗はガスコンロにフライパンを乗せた後、小さな冷蔵庫から卵を二つ作業台に置く。




「先ずは、ガスコンロのつまみを中に合わせて着火する。それからサラダ油を少し入れてフライパンを回してまんべんなく広げて……」




一通り手順を説明した後、全てを任せる事に。

その間、ベランダで育てているミニトマトの収穫を行っていると、平和を乱す香りがプンプンと漂ってきた。


もしやと思い台所に戻ると、フライパンの中の目玉焼きは案の定の展開に……。




「焦がしてしまいました」




沙耶香はしゅんとした顔で言う。

颯斗は収穫したばかりのミニトマトをボールに入れてから、フライ返しを持ってフライパンから卵を皿に移すと、沙耶香に優しく微笑んだ。




「最初から上手に焼ける人なんていないよ。ほら、焦げてるのは端っこだけだし全然食えるよ」


「でも……」



「大事なのは相手を思って一生懸命作る姿勢。味や形は二の次。サヤが初めて作ってくれた料理だから嬉しいよ。ありがとう」




沙耶香は優しさを受け取ると、感極まって鼻頭を赤く染めた。

大家族で生活してきた颯斗にとって、家事は兄妹で分担していた事もあって失敗は気にもとめない。




「やっぱり颯斗さんが好きです。ずっとずっとこのままでいたい」


「大袈裟だなぁ。ほら、新鮮なミニトマトが八個収穫出来たから朝食にしよう」



「はい!」




沙耶香が穏やかな眼差しを向けると、颯斗はホッとして水道の蛇口をひねってミニトマトを洗い始めた。

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