第18話

「やめやめ、やめた。もう帰って」


「失礼を言ってごめんなさい。……でも、本当に私を覚えていませんか?」




俺は『覚えていませんか?』のひと言に身体が一時停止した。


彼女が自分を知っていたのはいま判明したばかりだけど、記憶を辿ってもお金持ちのお嬢様の知り合いどころかお目にかかった事さえ……。




「えっ……」


「本当に私が誰だか分かりませんか?」



「何の事だかさっぱり……」


「そうですか。覚えて……ないん……ですね」




寂しそうに視線を落とした彼女の語尾が消えていく。


しかし、その直後。

彼女の左背後にいる男がいきなり唸り声をあげて身を震わせ始めた。




「うぐぐ……」




俺は、男の背中から燃え盛る炎が見えてきそうなほどの唯ならぬ雰囲気に思わず身体を逸らした。

すると、男はスーツの左内ポケットに手を入れてサングラスの隙間から睨みをきかせる。




「なっ……何だよ」


「ぐぐぐぐ……」




男は何故か言葉を喋らない。

団員はボスを差し置いて喋ってはいけないルールでもあるとか?


しかし、手を突っ込んだままのブレザーの内側からは一瞬銀色にキラリと光る物体が見えた。




そこで思った。


黒服にサングラス姿。

桁外れな現金。

女ボス。

マフィア。



この短時間で三人組の要素を足していった結果、その銀色の物体は拳銃ではないかと。




そう思った瞬間、恐怖に怯えるあまり全身の血の気が引いた。


黒服の二人組がレジを塞ぐように壁になっていて店内客からはその様子は見えていないが、誰一人レジに近付こうとしないほどこの三人の威圧感が半端ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る