第四章

役不足

第27話

会いたくなくても会わなきゃいけない。

ーーそれが、雇用。


今日から本格的に日向の家で家政婦として働く事になった。

先に到着している林さんにエントランスの扉と部屋の玄関扉を開けてもらう。




「お疲れ様です」


「林さん、こんばんは。お疲れ様です。よろしくお願いします」




丁寧にお辞儀をした後、顔を見上げたら彼女は目を丸くしたまま私に聞いた。




「……早川さん、イメチェンしましたよね?」


「あ、はい。ま、まぁ……昨日色々あってこうなってしまいました」



「そうなんですか……」




彼女が驚くのも無理はない。

昨日は隠キャの姿で現れたのに、今日は陽キャとして別人のような姿で現れたのだから。


それから彼女と任務を交代して、持参したエプロンを制服の上から装着した。

リビングに進むと、ミカちゃんは相変わらずソファに寝転んだままテレビから目を離さない。

まるで人とのコミュニケーションを遮断するかのように……。


私は昨日受け取った業務に関するメモを手に取って1日の流れを確認した。




「ええっと、お風呂を洗って洗濯機を回した後は、トイレ掃除をして、掃除機をかけて、洗濯物を干して、食事の支度をして、ご飯を食べさせて、ミカちゃんをお風呂に入れて、食器を片付けて、洗濯物を畳む……か。彼が帰宅するのが20時から21時の間ね。ふむふむ……」




紙をざっと眺めただけでも、この作業を4時間以内にこなせるか自信がなくなった。

何故ならこの家は2LDKだけど、リビングに置いてある6人がけのソファがミニチュアに見えるほど部屋が広いから。

もしかしたら、時給はあの金額が相応だったのかもしれない。


早速メモを確認しながらせっせと働く。

六畳ほどのミカちゃんの部屋に入って掃除機をかけると、おもちゃ箱の上に数枚の画用紙がバラバラに重なっていた。


それをひとまとめにしようと思って両端を持つと、そこに描かれている絵に目が止まった。




「これは……」




一瞬言葉を失った。

何故ならこの絵には通常では絶対に描かれないある装飾が施されているから。


しかし、洗濯の終了のメロディが耳に届くと、掃除機を持って洗面所に向かった。

絵を見て色々と思う事はあったけど、時間内にやらなきゃいけない事がわんさか押し寄せてくる。

それから洗濯槽から取り出した洗濯物をピンチハンガーに干している時にある事に気づいた。




「こっ……これは…………。あああ……あいつのパ……パンツ。こんなプライベートな物まで干さなきゃいけないなんて……」

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