ぼっちな自分

第3話

ーー6月下旬の今日。

アジサイが開花を迎えてる時期ならではのしっとりとした空気を身にまとう中、汗だく状態のまま登校した。

3ーEの教室を確認して後方扉から中に入ると、人工的なひやりとした空気が身を包む。


教室内で「おはよう」と飛び交う声が私の身体を通過していく。

もしこれが自分にあてられるものだとしたら、逆に注目を浴びるだろう。

何故なら、私は黒板や教卓や等間隔に並べられた机やイスのような存在だから。


右から三列目の前から三番目の席に座り、今日の授業で使用する教科書やノートを机の中に入れてからカバンを横のフックにかける。

日課のような一連作業を終えると、スカートのポケットからスマホを取り出してゲームアプリをログインした。



私の趣味はマニアックな恋愛ゲーム。

その名も『ドッキドキ王子様に夢中』。

略して【ドキ王】。

このゲームにハマった理由は、単にイケメンキャラクターが好みだったから。


ゲーム内容は、自分(お姫様)磨きをしてモテ度を上げながらお気に入りの王子様とAIチャットをしてコミュニケーションを図っていき、王子様の性格を生成していく。

ユーザーレベルがMAXになると、王子様から最高なシュチュエーションとセリフでプロポーズをしてもらえるという。



……でも、楽しみにしているのはゲームだけじゃない。

同じクラスのリアル王子様を眺めるのも楽しみの一つ。


いま教室の窓際で友達と一緒に太陽の光を浴びている憧れの彼の名前は、二階堂陽翔にかいどう はると

サラサラストレートの茶髪に整えた眉。

キリッとした二重にスッと鼻筋の通ったイケメンだ。

身長は175センチ前後で細マッチョ。

彼はバスケ部に所属していて、放課後に体育館の扉から他の女子に紛れて部活動の様子を見に行った事もあった。

ドキ王の王子様の名前を『ハルト』にするほど私のお気に入りの人。


でも、きっと彼は私の名前を知らない。




「ねぇ、結菜。一階の自販機でイチゴ牛乳買って来てくれない?」




真横から声がかかって目を向けると、そこには幼馴染の渡瀬杏わたせあんがニヤニヤと薄笑いをしている。

彼女の机を囲んでいる友達2人も同調するように目を向ける。


幼馴染といっても、今は仲がいい訳じゃない。

彼女は私を都合のいい女に仕立て上げている。

そして、彼女を取り巻く環境が私をより一層みじめにさせていく。




「いいよ。行ってくるね」




でも、昨日も今日も嫌とは言えない。

彼女から大切なモノを次々と奪ったのは私自身だから。

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