第八章

大切なみんな

第60話

ーー朝を迎えた。

いつも通りの何気ない風景。

でも、人間界の生活は今日で終わり。

まだ実感が湧かないから、明日も同じような1日がやってくるような気がしてならない。


いつも通りおばさんが作った朝ごはんを食べて学校に向かった。

玄関で笑顔で手を振って見送ってくれるのは今日で最後に。



90日間、毎日通った学校。

私にとっては青春の塊だった。

いい事も嫌な事もあったけど、振り返れば幸せの詰め合わせだったのかもしれない。


美那が教室に到着して澪に「おはよー!」とひと声かけると、澪は後からつっついてこう言った。




「何か嫌な事があった? 元気ない顔してる」


「ううん、全然ないけど……。あ! 実はビッグニュースがある」


「えっ、何なに?」



「んふふ……。滝原くんと仲直りしたよ」


「うわぁ、良かったね!」




澪の顔を見るのも今日で最後。

でも、お別れの言葉は言えない。


彼女は親友だった。

恋には消極的なタイプでいつも自分に自信がなかったけど、恋をしてる事に気付かせてくれたり、一緒に遊んだり、家に泊まりに来てくれたよね。

彼女のお陰で人間界がすごくいい思い出になった。

明日から会えなくなると寂しいよ……。




「美那っち、澪、グッモーニング!」




怜は前扉から軽く手を上げて美那と澪に挨拶をする。




「怜くん、おはよー! 滝原くんと仲直りしたってね。滝原くんから聞いたよ」


「うん。美那っちが悩みの原因を教えてくれたお陰だよ。ありがとね。夏都から聞いたって事は、美那っちも仲直りを?」



「うん! 仲直り出来たよ。心配してくれてありがとね!」




いつも元気を分け与えてくれた怜くん。

思った事をすぐ口に出しちゃう人だから最初はちょっと苦手だったけど、いつも私の気持ちを理解してくれた。

私がヴァンパイアだと判明しても嫌な顔をひとつしなかった。



今晩吸血をしたらどうなっちゃうのかな。

ミッション達成と同時に身体は消えちゃうんだよね。

そしたら、みんなの記憶からも消えちゃうんだよね



滝原くんとは一生お別れかな。

これからは、具合が悪くてもご飯を作ってあげたり、傍にいてあげれなくなる。

もう二度と力になってあげられない。


私自身もこの恋心を背負ったままヴァンパイア界で暮らしていく。

叶わぬ恋って、こんなに辛くて苦しいんだね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る