第二章

非難

第10話

ーー翌日。

モテ男の夏都が怜から美那をかばったという噂が一年生の間で広まっていた。


学校に足を踏み入れた瞬間から美那の方を見てヒソヒソ話を始める女子生徒。

時には指をさされながら。




「ねぇねぇ、来たよ。あの子でしょ? 滝原くんがかばった女子って」


「しかも、知り合いとかじゃないらしいよ」


「ねねね! どんな雰囲気だったって? 誰か聞いた〜?」


「何なに〜? あの子が原因で初日からイケメン同士のケンカがあったんだって? 見たかったぁ!」




入学2日目なのに朝から女子の目線が痛い。

こうなった理由は、昨日の小さな出来事から発展したケンカ。

人間界では目立たないようにしていこうと決めていたのに、初日の騒ぎで自分の首を絞めた。

トホホ……。


すると、澪が後からちょんちょんと肩を叩いてコソッと言った。




「あんなの気にしなくていいよ。羨ましくて言ってるだけだから」


「うん……」




澪はなだめてくれるけど、他の女子の視線がきつくてほとんどの人が敵に見える。

嫌なところを突っついてくるという事は、新しい友達が出来て心に余裕が生まれたからかな。


滝原くんは影響力のある人。

でも、その人が私のターゲットだから今後は向き合っていかなければならない。

ヴァンパイア界でも嫌な人はいたけど、こうやって自分が標的になるのは初めての事。



やっぱりブリュッセル様が言ってた通り、人間界は地獄なんだね。

目新しい物が多くてキレイなものばかり見ようとしていたからバチが当たったんだ。


美那は悔しくて手のひらが痛くなるくらい拳を握りしめていると……。




「……それ、誰の為に言ってんの?」




後方から噂をかき消す声がした。

その声が教室内に伝わると、噂話はピタリと止む。

美那が涙目のまま振り返ると、夏都は後方扉の前から噂話をしている女子に転々と目線を当てた。




「自分の為? それとも他人の為? 人が困ってる所を見たら助けたいと思うのが普通じゃない? 憶測で話を繰り広げても誰にもメリットはないし、噂された人は嫌な気持ちしか残んないから」




夏都は冷静な口調でそう言うと、先ほどまで噂話をしていた女子は気まずそうに黙り込んだ。

すると、後ろから現れた怜が横から腕を回して肩を組んだ。




「夏〜都〜、かぁ〜っこいいじゃん。確かに噂された方は普通に嫌だよな〜」




怜は軽い口調でそう言うが、夏都は「うるせっ」と言って腕を振り解いて教室を出て行く。

美那はすかさず席を立って追いかけた。


前方扉を出て三メートル先に夏都の姿を目に映すと、叫ぶように声をかけた。




「待って、滝原くんっ!」




夏都は呼び止められると、背中を向けたまま足をゆっくりと止める。




「どうして助けてくれたの?」


「……別に。当たり前の事を言っただけ」




夏都は顔も見ずにそう言うと、再び足を進めてその場から離れて行った。


心が窮屈になっていた時に救ってくれた彼。

人に妬まれた経験は初めてだったけど、こうやって気持ちを大切にしてもらう経験も初めてだった。

だから、なんか嬉しかった。



取り残された美那は佇んだまま温かい目で夏都の背中を見つめていた。

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