温もりに包まれた手
第35話
「皆川くんはもうとっくに私との約束なんて、忘れてるよ。きっと、もう私とは別の新しい人生を歩んでいるはず」
互いの気持ちの温度差に胸が締め付けられた紗南は、肩を震わせながら過去の話に区切りをつける為に、可愛げもなくボソリと返事を跳ね返した。
「いいや、奴はあんたとの約束を忘れてないかもよ」
「…え?」
悲観的に返事をした紗南とは対照的に、セイはまだ過去の話を繋ぎ続ける。
今は皆川くんよりも、隣にいるセイくんの事で頭が一杯なのに。
皆川くんとの再会に期待を持たす彼の一言は、まるで閉ざされたカーテンのように、私との間に一線を引いているように思えた。
すると…。
「ゴホッゴホッ。あの…さ、喉の調子が悪いから、いつもの飴ちょうだい」
「…え、喉の調子が悪いの?大丈夫?ちょっと待ってね」
セイは急に会話の途中で咳き込んだ。
運良く過去の話から抜け出す事の出来た紗南は、ブレザーのポケットから出した飴をいつものようにカーテンの下から手を目一杯伸ばして差し出した。
「はい、飴どうぞ」
「ん、サンキュー」
ーーしかし、その時。
セイがカーテンの下から伸びた手が包み込んだのは、紗南が差し出した飴ではなく。
飴を握りしめていた紗南の手。
セイに飴を差し出した紗南の拳は、飴を受け取るはずだったセイの手の温もりに包まれた。
離れたベッドのそれぞれのカーテンの下から伸びた手と手。
それは、まるで橋渡しのように、宙でしっかりとお互いの手が繋がれていた。
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