保健室に二人きり

第9話

時は進み、沈黙が続く保健室内には、私と隣のベッドの★さんと養護教諭の三人だけしかいない。




授業が始まり静かな室内には、先生がボールペンを滑らす音、服が擦れる音、椅子の軋む音や、私がベッドに寝返る鈍い音が響き渡る。






…と、その時。


ガタッと勢いよく椅子が揺れ動く音と共に、先生はベッド方向に向かって口を開いた。




「ちょっと職員室に行ってくるから、二人とも静かに寝ていてくれる?すぐ戻って来るから」


「はぁい」

「うィー」




隣の人はずっと静かだったから、てっきり寝ていると思ってたのに、まさかのハモり返事に正直驚いた。





カツカツと軽い靴音が遠退き、部屋の扉が閉まった途端、部屋には★さんと私の二人きりになった。






床に置かれていたメンズサイズの上履きと、一瞬だけ返事がハモった低い声からすると、隣にいる人物は明らかに男子と思われる。




今、沈黙した保健室内には男女二人きり。




ベッドとベッドの間には、それぞれに薄いカーテンが垂れ下がってるだけであり、非常に薄っぺらく頼りにならない境界線である。




非常に気まずい。


先生がここに戻る前に、隣の男に何かされたらどうしよう。




若い男女が狭い室内に取り残されるというまさかの展開に、良からぬ方向へと想像が湧き立っていく私は、保健室の殺伐とした空気に心を狂わされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る