溢れ出す涙

第33話

彼は拳をギュッと握りしめると、勢いよく太ももに叩きつけた。




「母さんが卒業を機に家を出ようって言い出して…。父さんとは同じ町に暮らしたくないって。それどころか、父さんには二度と会うなって言うんだ」


「………」



「俺はこの街が大好きだから離れたくないのに…。母さんは俺の気持ちなんかちっとも考えてくれねーよ」




俯きながら力強く気持ちを吐き出す彼の瞳からは、ポロポロと大粒の涙が次々とこぼれ落ちている。


背中を震わせながら思いを吐き出している彼の深い悲しみが、隣の私にも伝わってきた。

黙って話を聞いてるうちに自然と目頭が熱くなっていく。




私は上着のポケットに入れているハンカチを手に取ると、彼の瞳から溢れる涙をハンカチに染み込ませるように拭いた。

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