第30話

道の向こうから、大型トラックがやってきた。


自動車用の信号は青。


スピードは落とさない。


トラックがもうすぐ目の前に来る、というところで、私は縁石を飛び降り、道路に立った。


立ったというより、足で触った、と言った方が正しいかもしれない。


キー―ッという大きな音。


後ろが、らしくなく騒がしくなってた。



 次に目が覚めたら、集中治療室……っぽいところにいた。


……もしかして、死ねなかった?


その時の私は一瞬考えた。


でも、身体を動かせる。


痛みも何も感じない。


透けた自分の手を見て悟った。


私、幽霊になっちゃったんだって。


 もうこの世界を見なくていいって思ったのに。


帰って来ちゃった。


はやくあっちに行かせて。


もう嫌だ。


お願い。


時雨くん。


その名前を思い出して、気づいた。


私、本当は時雨くんのこと、諦めてなかったんだ。


死ぬ直前も、時雨くんのこと思い出してた。


やっぱり、伝えないと駄目なんだ。


この病院、多分時雨くんがいるところ。


明日の夜、会いに行かないと。

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