第69話

「引きません?」


「引かねぇ」


「本当に引きません?」


「引かねぇって」



何も要らない。


別に何も要らないから。


ただ、



「あ…、愛して欲しい」



そう言ったら先輩は私の髪を掻き上げて、モカブラウンの瞳にただただ私だけを映した。


“貰う”と告げた時と同じように、羞恥心も疑問も考える隙すらも、全て私から奪い取るような、妖艶な微笑を浮かべて。



「そんなん、言われなくたって、もうとっくに愛してるよ」



と欲しくてしょうがなかった言葉を呟き、私にキスをした。



嬉しくてどうしようもない気持ちを責めるように、心の奥底に付けた古い枷が外れる音が響いてる。


泣きたくなるような悲しい音が。


甘く重く夢じゃないと現実を見せつけるように、時を止めてた世界が再び色を変えて進んでいく。

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