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ビビったら負け。

ビビったら負け。

ビビったら負け。



距離を縮めるようにじりじりと近づかれ、一歩ずつ下がりながら頭の中で何度も自分で言い聞かせる。



望都とノンちゃんの間に何かがあるなんて、そんなのあり得ない。



望都を毛嫌いしているノンちゃんは本物だ。


本気で結婚したくないと嫌がってるし、彼女の心は乙女ゲームの枠を飛び越えて勝利さんの方に向きつつある。



“本当は望都が好き”なんて事実があるようには全く見えない。



でも、2人の間で過去に何かあったのは確か。


昔の望都について語ったノンちゃんの顔は寂しげだったし、私が投げた“望都が好きだったのか”って質問に、彼女は“昔のことなんて忘れた”と濁した答えを返してた。



ハッキリした答えを返すノンちゃんにしては珍しく。



いとこ同士なら長い付き合いだろうし。


好きだった時期もあったのかな。


子どもの頃の2人はどうだったんだろう……。



どっちにしたって望都の言葉に動揺している場合じゃない。



ここで怯えた顔をしようものなら首絞めお絵かきコースにプラスして、先輩からのお仕置きも待ってる。


それだけは避けたい。



――♡――♡――♡――





「いったい、ノンちゃんとの間に何があるって言うの?」


「愛情」


「どこが?そう思いたいだけでしょう」


「嘘じゃねーよ?乃愛は何だかんだ言って俺が好きだし、俺も乃愛を愛してるから」


「…………そのわりには、いろんな子を取っ替え引っ替えしてるじゃない」


「だって、しょうがねぇじゃん。本物は貰えねぇんだから」


「本物……?」


「お前と一緒。本物が貰えねぇから他で誤魔化してんの」



何もかも諦めたような望都の寂しげな声。


終わりを告げるように予鈴が鳴り響く。



童話チックで非現実な雰囲気が漂う中庭。


強めの風が吹き、地面に落ちた薔薇の花びらが舞って髪とスカートを揺らす。



授業が始まってしまう……、と真面目なことを考えてしまう程度には冷静だ。



先輩との電話は恐らくまだ繋がったまま。


きっと、もうすぐ来てくれる。



しかし、望都と顔を合わせたらマズイ。


好きだと告げて以来、先輩の独占欲は格段にUPしている。



望都が余計なことを言ったら絶対にキレるに違いない……。



出来れば逃げたい気持ちを抱きつつも、一歩近付かれる度に一歩後退りをして2人の間の距離は一定。



鬱蒼と茂る緑の葉と薔薇の枝が嘲笑うように行く手を阻む。



それでも負けじと方向を変えた瞬間、足を払われて躓かされた。



やばい。やばい。やばい。って頭の中で焦る。




――♡――♡――♡――


「可哀想じゃね?俺」


「はぁ?」


「だからさ、舐めてよ。いつもご主人様にしてるみたいにさ」



そんな気持ち悪い言葉と共に上に跨がられて唇に指を這わされた。



勿論、思いっきり唇を噛んで暴れて抵抗。


しかし、望都はケラケラ笑うだけだ。



感覚が麻痺って血の味が口の中に広がっていく。



気持ち悪い……。



「嫌……っ!」


「なんで?たかが指じゃん。いつも加賀にやってるみたいにやってよ」


「知らない。させられてないし、まだっ」


「えー。まだかよ。ぜってぇ毎日咥えさせてると思ったのに。あいつ分かってねぇな」


「先輩は望都と違うの」


「違う、と思えてりゃいいね」



そんな言葉が投げられた瞬間、望都の身体が吹き飛んだ。


一気に重みが無くなって太陽の光が顔に降り注ぐ。


何が起こったのか理由わけも分からず、呆然と瞼を瞬かせながら起き上がる。



視線を彷徨わせてみれば、地面に転がる望都と表情も薄く望都に詰め寄る先輩が見えた。



あぁ、顔を合わせてしまった……。


絶対の絶対に怒ってるし。



大丈夫かなぁ……と望都の胸ぐらを掴む先輩を見て不安に思う。



「ははっ。大人しく来たと思ったら、ちゃーんとチエミのことを見張ってたんだ?」


「うぜぇ。顔を見せるなって言っただろ」


「だって頼まれごとをしちゃったし?どうせ会うならチエミと遊びたいじゃん」


「しねよ」


「やだね。まだ見てねぇもん。チエミとお前がしてるとこ」


「しつけぇな……」



腹立たしげな先輩の声。


本鈴が鳴り響く中、バシッと鈍い音が響く。


ムカついてるのか許せないのか、躊躇なく顔面に拳を入れてて心底ビビる。


また、この前の惨劇が再び……。



止めた方がいいよね?


でも、果たして止まるんだろうか。



分からないが、傍に寄って先輩の背中に抱きついた。



そしたら腕を引っ張られて拘束するように羽交い締めにされた。


まるで犯人と人質。


なんで?と疑問が過る中、服の下に手を潜り込まされ、息を飲む。



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