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例え相手がどんな人物であろうと誰かにお前を呼んでこいとパシられてる可能性があるから……、と隅々まで警戒するんだから先輩の隙の無さは余っ程だ。
元々、心配性な面はあったけど、日に日に過保護度が上がってる気がする。
今だってメールで状況を送ったら30秒も経たずに返事がきた。
“電話を掛けるから何も話さずにポケットに入れて繋ぎっぱなしにしとけ”って。
お兄ちゃんか先輩関連で呼び出されてるのかも知れないし、だとしたら直ぐに行動に移れるよう会話が筒抜けの状態にしておくらしい。
それなら人気のない場所に誘われても大丈夫そうだ……と思いながら、掛かってきた電話を通話状態にしたまま、スマホをスカートのポケットの中に入れる。
とはいえ、廊下は話してる生徒が大勢居て騒がしい。
ちゃんと聞こえるのかな?
少し心配しつつも階段の方に向かうと、ボブカットの大人しめの女子生徒が壁に背を預けて私のことを待ってた。
確かに赤色の上履きを履いてるし、顔立ちからして1年生っぽい。
でも、話したことも無ければ、見たこともない子だ。
少なくとも同じクラスの生徒じゃないのは確か。
誰だろう……?と思いつつ、傍に近寄り声を掛ける。
――♡――♡――♡――
「あの……」
「あ、橘さん。ゴメンね。いきなり呼び出して」
「ううん。大丈夫。気にしないで」
「ほんと?良かった〜。さっき教室を覗いたら友達と話してたみたいだったから」
「いいの。それより私に何か用事?」
ちょっと言い方が冷たくなったのを気にしつつ、目の前の女の子に早く本題を話してくれるように促す。
予鈴が鳴るまで後10分くらい。
そこまで話してる時間もなさそうだし。
「うん。ちょっと渡したい物があって」
「渡したい物?」
「預かり物って言った方が正しいかも」
「はぁ……」
「ココじゃ渡せないから中庭の方まで付いてきて」
そう言って女の子はニコリと笑って階段を降り始めた。
どうしようかな……。
断るべきか付いていくべきか迷う。
しかし、断ったところで手を変えて再び来られそうな気がしたから、大人しく後を付いていった。
先輩の目がある今の方が安全だし。
だって明らかに変。
目が笑って無いし、絶対に罠だと思う。
――♡――♡――♡――
そもそも私を呼ぶために声を掛けた相手のチョイスが大和なのも怪しい。
他にも生徒が沢山居るのに、わざわざ不良の、それも機嫌が悪そうな大和に頼む?
大和はこの子のことを全く知らなさそうだし、仲が良くて頼んだ線はないはず。
だとしたら不良に慣れてて頼みやすかったか、私と大和がそこそこ話すと知ってて頼んだとしか思えない。
所詮、憶測でしかないけど。
「ねぇ、名前は?どう呼べばいい?」
「マコって呼んで欲しい」
「マコ……?」
「うん。マコ」
名前を呼ぶとマコさんは愛想のいい笑みを私に向けた。
釣られて微笑んだけど、少し動揺。
マコってタイムリーな名だ。
ニ菜さんの男装仲間がなりきってた、天真爛漫なあのキャラと同じ名前。
――♡――♡――♡――
もしかして、あの時の人と同一人物じゃ……?と思わずマジマジとマコさんを見つめてしまう。
しかし、身長も違うし、声もこんな感じじゃなかった。
あの時の人とは骨格からして別人。
写真で見たマコ役の人はパッチリとした目に鼻が少し低めで唇がぷっくりとした感じの顔立ちだったけど、目の前に居るマコさんは目が細くてスッキリとした鼻と唇で純和風な顔立ちをしている。
中身も温厚そうだし、物静かそう。
中学のときの友達に雰囲気が少し似てるなと感じるくらい、私の友達に居そうな真面目っ子タイプ。
どの視点から見てもケラケラ明るく笑いまくってたあの人との共通点は見えないし、さすがに別人だとしか思えない。
つまり、名前はただの偶然。
じゃあ、ブラックベリーのメンバーだったり?
それにしてはタイプが違うし、幼すぎるか……。
お兄ちゃんに恨みがある人が集まってるはずだし、この子が恨みを持つほどお兄ちゃんと関わってたとは思えない。
だとしたら、もっと別の誰かの差し金な気がする。
例えば望都、とか……。
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