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お兄ちゃんが居た頃を思い出して楽しいのかも知れない。
お婆ちゃまに反抗的な態度を取るのはお兄ちゃんくらいだったから。
その懐かしいやり取りに付き合わされてる先輩は、振り向いて複雑そうに私を見てるけども。
しかし、あなたが1番警戒すべき相手は間違いなく阿部さんです……と声を大にして言いたい。
先輩のカッコいい武勇伝を語ってると信じて疑わず、ペラペラと先輩が行った悪さについて私に情報を回してきているんだから。
「それで今日は何の用があって家に来たんだい?」
「婆さんへの挨拶と後はまぁ昴に顔を見せにな」
「あぁ、仏壇に手を合わせに来てくれたんだね」
「構わねぇ?」
「勿論さ。あの子もきっと喜ぶよ」
それらしい用件を伝えた先輩にお婆ちゃまは薄っすら笑みを零した。
先輩も話を合わすように、しれっと頷いてる。
ただ、その場の勢いで言ったわけではなく最初から本当にそうするつもりだったようだ。
先輩はリュックの中から羊羹の箱を取り出すと『あいつの好きな物と迷ったけど』とお婆ちゃまに箱を手渡した。
時々お兄ちゃんがお婆ちゃまに買って帰っていたのを思い出して、これを持っていくことにしたらしい。
あいつだったら持ってくるなら自分じゃなく婆さんの好物って頼むだろうから、って。
受け取ったお婆ちゃまは物凄く嬉しそうだ。
あんた気が利くじゃないか!ありがとう、とテンション高く先輩にお礼を告げてる。
――♡――♡――♡――
「あんたも義理堅いね。墓の方にも顔を出してくれてるだろう」
「たまにな。でも、あいつ外より家に居そうだ」
「間違いないね。あの妹バカが大人しくジジイ達と眠るとは思えん。絶対にチエミの傍に居るよ」
そう言ってお婆ちゃまは私たちに背中を向け、玄関に向かって歩き出す。
先輩も同じく私の手を掴み、お婆ちゃまの後を追って歩き出した。
その横で軽く放心状態。
先輩が我が家のお墓に行ってるのも驚きだし、お兄ちゃんがお墓で眠ってることも初めて知った。
お爺ちゃんが亡くなったときのことを思えば、多分四十九日のときに納骨したんだろうけど……。
呼ばれもしなかったし、誰も教えてくれなかった。
まぁ、あの時の精神状態なら掘り起こしたり、一緒に埋まろうとしたり、朝から晩までそこに居たり、そういう異常なことをしてそうではあったから隠されていたとしても仕方がない。
現に今だって本当にそこにお兄ちゃんが居るのか気になってる。
見に行ったら“早く家に帰れ”とお爺ちゃんに怒られそうだ。
しかも、その叱るお爺ちゃんにすら許して欲しいと泣いて縋り付きそう。
――♡――♡――♡――
「先輩。そのお墓があるのってこの家の近くの大きいお寺の墓地ですか?」
先祖代々のお墓がある場所なら分かるし、尋ねてみた。
広々とした和風の玄関。
背の低い靴箱の上にお婆ちゃまが生けた花が飾られてある。
「そう。阿部ん家の寺」
「阿部さんの家?」
「あいつの親、あの寺の住職だから。家もそこにあるんだよ」
淡々と事実を告げられ口を閉じる。
阿部さんの家?
え、あの人、住職の息子なの?
あんなに厳ついのに………?
見た目は関係ないけど、中身を含めてちょっと意外。
“あいつは三男なのもあって兄貴らに比べて緩く育てられてる”……、と先輩は玄関の引き戸を閉めて私に言った。
自分より阿部さんの方が頻繁に墓を参ってる、とも。
――♡――♡――♡――
「あらまぁ驚いたね。チエミはあそこの息子とも知り合いなのかい?」
「うん。まぁ……」
「そうか。じゃあ、墓の前で寝泊まりされたら確保してもらおうかね」
「お婆ちゃま……」
「ま、来月一周忌を寺でやるから。その時に参るといいさ」
「一周忌……。やるんだ?」
「そりゃね。やってやらんと」
「そっか」
お婆ちゃまに微笑まれ、複雑な思いを抱きながら靴を脱いで揃える。
勿論してあげるべきなのは分かってるし、今度こそは私も行こうと思う。
だけど、行くのが憂鬱。
砂粒程度しかない希望すらも打ち砕かれる気がして。
あれだけ認めるしかない話を聞いておいて、まだ心の何処かで“もしかしたら本当は生きてるかも知れない”と懲りずに疑ってる。
絶対にそれはあり得ないのに。
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