第75話




ぽかぽかと暖かい春のお昼すぎ。



厨房で焼き菓子を焼いてたら出勤してきたカンナちゃんが暗い顔であたしのところに来た。



いつもニコニコ笑って元気なのに珍しい。



ジメジメと肌に纏わりつく梅雨の湿気のように、どんよりと重たい雰囲気。



彼女は今、高校も卒業して大学生になったワケだけど、変わらずにうちの店で働いてくれてる。



手放したくないから正社員にしちゃおうかしらと企み中よ。


長年働いてくれてるから仕事も出来るし。



そんな彼女が暗い顔をしてたら勿論何があったのか聞くわよね。


あたしは気付いの出来るオカマだから。




「カンナちゃんったら、どうしたのよ〜。全然、元気がないじゃな〜い」


「ピエールさん……っ」




堪らず声を掛けたら、カンナちゃんはみるみる表情を崩していった。



目に涙を貯められてギョッとする。



やだわ、あたし、何かしたかしら?と、そんなはずはないのに考えてしまう。



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