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「それと翠々、あなたとは一切の縁を切る。金輪際、叔母でも姪でもない。いいわね?」


 さすがに縁切りまでされるとは思ってもみなくて、ビックリした私はうつむいていた顔を瞬時に上げた。

 しかし待っていたのはきたならしいものでも見るかのような叔母の冷たい視線だった。


「留学費用の件は振込先をメールをしておくわ。そこに振り込んでおきなさい」


 カフェの女性店員が「大丈夫ですか」と声をかけにやってきたので、周囲の目が気になった叔母はすっくと立ちあがってそのまま去っていった。

 結局、最悪の結末になった。

 それなら最初からなにがなんでもお見合いを断っておけばよかった。今さら後悔しても遅いのだけれど。


 私も立ち上がり、こぼれたコーヒーの後始末をしてくれている女性に謝罪をしていると、突然背後から私の肩にスーツの上着が掛けられた。

 振り向くと真後ろに長身の男性が立っていて、彼の顔を見た瞬間、驚きすぎて思わず目を丸くする。


「る……琉輝るきさん……」

「とりあえず出よう」

「え、でも」


 彼に右手を引かれ、混乱したままカフェをあとにしてしまった。

 先ほどから予想外のことが起こりすぎていて、私はオロオロするばかりだ。

 足早にしばらく歩いたので、「いったん止まってください」と伝えようとしたそのとき、彼がどこかの部屋の扉を開けて私を中に押し入れた。


「ここ、入っても大丈夫なんですか?」


 中はミーティングルームといった感じで、テーブルと何脚かの椅子が設置してある。

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