■7■

「あいつら遅くねえか」




カズがそわそわしながらもそう言った言葉に公園の中にある大時計を見てみると、行ってから数十分は経っていた事に今更気づいた。




妹がカズと出かけると聞いただけでいつも心配だったのに、時間を忘れてたなんて不思議だ。アオと一緒に行ったから安心感があったとか、そんなの認めたくないけど。




「心配しなくてもアオには彼女が居るから大丈夫だぞー」




アオの兄貴がヘラヘラと笑いながらもカズを小突く。なるほどね、カズはそっちの心配してたわけ。




「心配しなくても俺の妹はカズにはやらないってば」



「おい!そんなんじゃねえっつの!」



「あいつらお使いの一つも出来ないのかね。仕方ないなあもう」






暑いのが苦手らしいアオの兄貴が木陰に入って行く様を見届けて、仕方なく俺が二人の後を追う事に。




カズも来たそうだったけど、もしも二人がそういう感じの雰囲気になってたらーーーというのが怖くてどうやらこれないらしい。




何を気にしてんのか。




停車しておいた自らのバイクを一度だけ確認し、歩いて道を進んでいく。少し歩いて角を曲がった所に変わらず自販機は置いてあった。




けれどーーーーー。




「………」




自販機の前に散乱した飲み物がいくつか。ウーロン茶、コーヒー、オレンジジュースが2本、どう見てもアオに頼んだ飲み物だ。




落下していたオレンジジュースに手を伸ばし、腰を落とす。持ち上げて見ればベコリと凹んだジュースの缶はアスファルトの熱でもうすっかり生ぬるくなっていた。





「あいつら…どこ行った」




明らかに何かがあったのは見ただけで分る。ざわざわとした気持ち悪さと沸々と湧き上がる怒りを押し殺しながらも一旦周りをグルリと確認してみる。




アオが俺の妹を連れて、どこかに行く事はまず考えてもありえない。




あいつを信用してるわけじゃないけど、そういうのは無い。無いなら何があった?道路に目を向ければ真新しい急ブレーキをかけたようなタイヤ跡。




――――と、そこで突然俺の携帯がけたたましく鳴り出した。バックから取り出し画面を見れば、着信は妹からだったけど出る前から違うと分かってた。




静かに息を吐き、電話に出る、相手はやっぱり妹じゃなかった。




『よおハチ』



「誰あんた」



『まあ、それは会ったら分かるって。それより今から指定する場所に来てくれねえかな』



「理由は?」



『それも来たら話す』



「俺ハッキリしない理由で行くの嫌いなのよね」



『そうか、じゃあハッキリした理由を教えてやる。お前の妹は預かってる。これで納得したか?』



「…ああ、十分納得した。それで?場所は?」




右手で携帯を掴みながらも左手は親指の爪で人差し指の爪を弾くようにする。




カシカシカシカシ、怒りをぶつけるようにしていると相手は指定するその場所を口にしてすぐさま電話を切った。




右耳から携帯を外し、数秒待っているとこれは嘘ではないと脅しをかけるように今度はメールが一通届いた。





送られてきた相手は勿論妹となっていたけど、内容を開いてみると『早く来いよ』とその一文のみで、写真が一枚だけ添付されていた。




下にスクロールしていくと、どうやら撮ったのは車内らしい、妹が知らない男二人に挟まれるようにして刃物を突きつけられて泣いていた。その後ろの席にはアオがぐったりとした様子で両手を縛られた状態で映っていて気を失っているのか何なのか。




「使えねえクズだ」




アオと一緒に行かせたのが間違いだった。




これならカズと行かせた方がまだマシだったかもしれない。




落ちていた飲み物を全て自販機の横に置いてあった缶用のゴミ箱にぶちこんだ。まだ中身が入っていた飲み物は全て重そうな音をたてながらも飲み込まれていった。





その後、どうやって公園まで戻ったのか全く覚えてない。気づいたら公園の前にたどり着いていて、一人で戻ってきた俺をいぶかしむようにカズとアオの兄貴が俺の元にやってくる。




俺はそれを無視するようにバイクへと跨りヘルメットを被った。




「アオと蜂谷はどうしたんだ?」



「アオが妹を連れ出したみたいで居なかった。妹からさっき連絡が入ったから迎えに行ってくる」



「アオが?」



「ああ、あいつ馬鹿なんじゃねえの。妹はまだ人混み苦手だって言うのにさ」




バイクに鍵を指し込みエンジン音を吹かせる。地響きのように鳴るその音にかき消されぬように、いつも気だるげな声しか出さないアオの兄貴が始めて。






「嘘だな」




俺に届くように声を少しだけ大きくして言った。




走り出そうとする前にバイクの鍵を引っこ抜かれる。けたたましい音をさせていたバイクがまるで怯えたように静かになっていく。




バイクの鍵をぎゅっと握ったアオの兄貴が視線の中に怒りを織り交ぜたのが分かった。おー怖いこと怖いこと。




「嘘じゃねえよ、さっさと鍵を寄越せ」



「あいつは黙ってお前の妹を連れ出すような事はしねえ。馬鹿だけどそこまで馬鹿じゃねえ事くらい俺には分かる。何があった」



「しつけえ兄貴だね」





構っちゃいられねえ。




俺の隣に立っていたアオの兄貴の鳩尾に思いっきり蹴りを入れた。さすがに身構えていなかったらしい兄貴が尻餅を着いて鍵を取り落とす。




腹を押さえてゲホゲホと咳き込む姿すらざまあみろと思った。




俺にはそんな余裕は無いし、他人なんてどうだっていい。アオの事は気に入ってたけど、前からずっと忠告してた、切り捨てることなんて簡単だ、妹を守るためならば。




落ちた鍵を拾い上げた俺は無理矢理押し込むように鍵を差し、エンジンを吹かしてから勢い良くグリップを握った。




ウィリーするような走り出しのままカズとアオの兄貴の隣を飛び出す。前輪が真上に高々と上がり、送れてドシンと地面に着地する。




「おい待てよハチ!!」




カズが俺の後を追って駆けてくる。運動神経が良いあいつでもさすがにバイクには追いつけず、俺が角を曲がった所からサイドミラーにはもうカズの姿は映らなくなっていた。




どいつが妹とアオを連れて行ったのか何となく分かってた。分かってて、向かった先で提示される条件も理解してる。



きっと話し合いの上、どちらも帰すとは言わないだろう。そんな馬鹿な事をするような相手なら、それはそれで笑って終われるけど、きっと妹かアオどちらかしか帰してくれない。




「俺は迷わず妹を取るけどね」

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