1-3

喫茶店の中、俺の隣には伊織が、そして向かいに座っているのは以前依頼してきた女が一人。あの時一緒に居た男は今日居なかった。




頼んだクリームソーダ―のアイスを、伊織がスプーンですくいながらも「それで?」と目の前の女に促した。




もう、この依頼は無かった事になっていたからか、伊織の態度はどこか素っ気ない。それでも来たのは、興味本位と、それから優しさもあるんだろう。決して認めないだろうけど。




「猫の件についてなら、依頼を受けた時に説明したと思うけど専門外だから」



「そう……なんですけど……その」



「……何か気になる事があるんですか?」



「雪」



「だって放っておけないよ。俺も猫と一緒に暮らしてるから、居なくなったら辛い気持ちは凄く分かる」



「だからって」




敢えて首突っ込むこともないんだぞ、と伊織はちらりと視線だけを俺へと寄越した。だけれどこのままにだってしておけないだろ。




どこまでやれるか分からないけれど、この子と同じく悲しがってる人は多く居るはずだ。光輝さんの依頼主だってきっと同じ気持ちなはず。




あの人が胸ポケットに入れていたちゅーるは、その猫を見つけた時あれでおびき寄せて捕獲する作戦だったんじゃないだろうかと思ったら、顔に似合わず可愛いところもある人なんだなと口元が緩んだ。




女はあの時と同じく瞳の中に涙をいっぱいに溜めて、縋るように俺達を見た。




「大学の知り合いから聞いた話なんです……、私の彼氏……この間来てたあの人の事なんですけど」



「ああ、あの頭の悪そうな」



「伊織……」



「本当の事だろ」




悪びれる様子も無く、肩を竦めた伊織に、女は怒った様子も無く悲しそうに表情を歪めると。




「あの人と以前付き合っていた女性が言っていた話なんですけど……飼っていた猫が突然居なくなったって」



「……それって」



「疑いたくなんて無いんです、あの人も一緒に探してくれたから。泣いていた私をずっと励ましてくれたから。だけど、閉め切った部屋から突然居なくなったあの子の事を思うともしかしたら……なんて思ってしまって…」




大粒の涙がテーブルの上にいくつも落ちて、小さな水たまりを作っていく。




伊織はその様子を何とも言えない表情で見つめてた。




「その彼氏さんに合鍵って……」



「渡してました」




閉め切った部屋、居なくなった猫。そこから連れ去れるのは、鍵を開けられる人間だけ。




散らばったパズルのピースがはまっていく、グラスの中の氷が解けてウーロン茶の上に透明の水が揺蕩う様を見つめながら「その人の住んでいる場所を教えてください」と目の前の女に告げた。




躊躇う様子、それからゆっくりと、女は決意するように居場所を教えてくれた。







「元々猫が目当てで付き合ったのかねえ」



「……」



「なあ、そう思わねえ?」




女から告げられた住所とスマホマップを照らし合わせながらも歩く俺の隣で、伊織は自らの耳たぶについたピアスを弄りながらも問うてくる。




そんな事、俺は当人じゃないから分からない。記憶を見れば分かるかもしれないけれど、そんなものは見たくない。




「どうする?部屋の中、猫の死骸だらけだったら」



「やめろって」



「それくらいの気持ちで行った方が良いって事だろ。何匹居なくなってるのか分からねえけど、生きてる保障なんてどこにも無いんだぞ」



「分かってる」



「分かってて何でこの依頼を受けた?そうなった時、あの女に何て言うんだよ。死体持ち帰って、死んでましたって言うのか」



「伊織だって、どうしてあの人からの電話に出たんだ」



「………」




俺に言ってるその言葉、そっくりそのまま自分にだって返ってるはずだろ。




依頼人の電話番号だって分かってたはずだ。忘れていたとしたって、相手が分かれば口の上手い伊織の事だから何とだって言って断れたはず。それなのにわざわざ俺に確認してきた。




「無下に出来ないと思ったんだろ。迷ってたんだ、このまま無かった事にして良いのか」




だから自分の気持ちを確かめるみたいに俺に連絡をいれたくせに。




「自分は違うみたいな言い方はズルい」



「……俺は別に……お前がショック受けて引っくり返ったら面倒だって思って忠告してんじゃん」




嘘ばっかり。




助かってれば良いなって思ってるんだ。だけれどもしも駄目だった時、あの人にどんな顔をして報告して良いのかも分からないんだろ。それは俺も同じだよ。同じだから一人じゃないよ。




迷う気持ちも、でも前に進まなきゃいけない気持ちも。




「着いた」




スマホマップに登録した住所と目の前の平屋が一致した。築何年かは分からないけれど、やけに古い一軒屋だった。庭先には花壇があるけれど、何の花も咲いてない。




雑草が覆い茂っているその場所は荒れていて、人は住んでいないように見える。




玄関先には錆びついた古い三輪車が横たわってた。




「本当にここか?」



「住所はここで合ってるけど……」



「間違った住所教えられたんじゃねえの?」




隣から覗き込んできた伊織は訝しむように、スマホマップと目の前の平屋を交互に見てる。




「行ってみない事には始まらないし……違ったら謝って……」



「お前ら何しに来た」




その時、後方から投げかけられた鋭い声音があった。




振り返るとそこには驚愕したように立ち尽くしているあの男が居た。間違いない、依頼してきた女と一緒に居たあの男だ。




わなわなと肩を震わせると「何しに来たんだよ!」と声を張り上げた。




「お前、あの子の飼ってた猫の行方知ってんだろ」




冷静さをかいている男を何とか落ち着かせようと言葉を選んでいる俺の隣で、伊織は直球すぎるその言葉を男に向けた。




もう少し言い方があったんじゃないだろうか。




けれどその言葉を聞いた男は視線を一瞬泳がせた。




「何の事だ。俺が知ってるわけねえだろ」



「知ってるか?人間は嘘つく時に表情が何かしら変化するんだってよ。お前みたいに視線が泳いだりな」



「……う……うるせえ!」



「そうやって怒鳴る辺り図星じゃねえか」




憤慨したように男が俺達に向かって駆けてきた。握った拳は不慣れそうで、空を切って勢いよく突き出されたそれは俺と伊織の間に飛んでいく。




「下手くそ」




躊躇なく男の腹を伊織が蹴った。くの字に折れ曲がった身体が、そのまま地面に倒れ込む。その時、男の手に握りしめられていたビニール袋も一緒に地面に落ちた。




中からいくつか転がって出てきたのは猫缶で、爪先にぶつかったそれをしゃがみ込んで拾い上げる。




「どうして連れて行ったりしたんだ」



「うるさい……」




力無く持ち上がった男の手が、俺の手首を強く掴んだ。




脳が揺さぶられるような記憶がどっと流れ込んできた。男の手を引き離そうとして、見えた記憶に思考が停止する。





横たわってる白い猫が見えた。

もう生きてはいない事が悲しいくらい伝わってくる。

「ああ……っ」

絞り出すような悲しい嗚咽と共に、猫に覆いかぶさって泣いているのは誰だろう。

手の平にはシワが寄っていて、手首は折れそうな程細かった。

「ばあちゃん……泣くなよ」

男が悲しそうに呟いてる。

それから景色がふっと切り替わった。


庭先にはこんもりと盛り上がった土があり、その前には花が供えられてる。

縁側でその様子を眺めている、あの老人の姿がある。

「どこいっちゃったんだろうねえ」

老人が何かを探すように辺りを見渡してる。

「あの子、またどこかに出かけてるのかしら。ねえ、いつになったら帰ってくると思う?ご飯を用意してたら帰ってくるわよねきっと」

こっちに振り返った老人が、虚ろな瞳を向けてそう言ってる。

男が言った、「うん、きっとそのうち帰ってくるよ。大丈夫だよばあちゃん」

たまたま町で見かけた白い猫が、飼っていた猫にそっくりだった。

猫缶を開けたら近寄ってきたから、そのまま抱いて家に持ち帰ってきた。

老人は「やっぱり帰ってきてくれた」と喜んだけれど、同時に凄く怖くなった。

またこの命が絶える時、ばあちゃんは次こそ辛くて死んでしまうかもしれない。

そうなった時、自分は一人ぼっちになってしまうから。

付き合った女性が、たまたま白い猫を飼っていた。

そんなつもりは無かったのに、気が付いたら連れ帰ってた。

泣く彼女の事を可哀想だとは思えなかった。だって自分の方がずっと孤独だから。





手の平に握りしめられていた猫缶を奪い取ったと同時、男の手が離れた。




散らばったそれらを丁寧に袋に戻す男の様は、とても異様に思えた。白い猫を連れ去っていたのは、この男が大事に思うおばあさんが大切にしていた猫に似てたから。




死んだ事を受け入れられないおばあさんのために、沢山の猫を集めてた。




絶やさないように、居なくなってまたあんな風に苦しがって泣いたりしないように。沢山居たら、きっと悲しんだりしないから。沢山居たら、命が消えたその後も他の猫が残ってくれるだろうから。




「俺達家族の幸せを奪わないでくれよっ……」



「家族が居なくなったら、悲しいのは皆一緒だよ」




この男の家族がおばあさん、たった一人しか居ないのと同じく、連れ去った猫達にだって大切な家族が居るんだよ。その猫を大切に思っている誰かが居るんだよ。




「辛くて苦しい気持ちが分かるなら、そんな事したら駄目だ」



「………お前に何が分かる」



「居なくなったら誰だって皆受け入れられない。だからって、誰かの家族を奪ったら駄目なんだ!」



「うるせえ!!」



「……っ…」



「雪!」




男が振りかぶった猫缶が勢いよく投げつけられた。片手で顔を覆ったその瞬間、空中でパシっと軽い音をたてて目の前にかざされた手の平の中にそれが収まった。




ハっとして顔を上げると、目の前には何でも屋の光輝さんが立っていた。




―――――何で、と疑問に思うと光輝さんの足元にはシロの姿があって。




≪こいつちゅーるくれたから好き≫と、懐いた様子で足元にすり寄ってる。




≪何か分かったら連絡しろって言ってただろ≫



【シロが呼んできたのか】



≪お前がどこかに歩いていくの見かけたから、何かあったんだと思ってな。こいつ物分かり良い男だぞ。俺が着いて来いって言ったら着いてきたもん。ついでにご褒美に後でまぐろの切れ端もくれるって約束した≫



【お前なあ……】



≪連れてきて正解だろ?顔面に猫缶食らわずに済んだんだから≫




――――その通りかもしれないけれど。




振り返った光輝さんの双眸が【連絡はどうした。きてねえぞてめえ】くらいの鋭さを放っていて、正解だったのか否か。むしろ状況はさらに悪化している気がしてならないんだけど。




「てめえが猫失踪事件の犯人か」



「光輝さん……穏便に」




人でも殺せそうな鋭い双眸に、男は「ひいっ…」と堪らず情けない悲鳴を上げてる。蹲った男の襟ぐりを乱暴に掴むと、無理矢理立ち上がらせて男の肩をドンっと拳が叩いた。




「てめえに家族は居ねえのかよ。お前がした事で悲しむ家族は居ねえのか」



「………っ」



「他人の不幸から得たもので幸せになって嬉しいかよ?そんなものは偽物の幸福だ」




掴んでいた襟ぐりから光輝さんの手が離れると、男の身体が地面へと落下した。力なく座り込んでいる男の隣を通り過ぎると、光輝さんは問答無用で平屋の玄関へと足を向け、扉を開いた。




せめて来客ボタンくらい鳴らすべきなんじゃと思っていると、中に入ろうとした光輝さんの背を男が急いで追いかけて引き留めた。




「やめて……ください……返します……返しますから、ばあちゃんには手を出さないでください」



「お前が盗んで連れて来たんだ。自分の手で元の場所に、元の家族の元に返せ」



「……はい……」



「お前を訴えるかどうかは、その時相手が決めるだろ。てめえはそういう事をしたんだよ。自分でした過ちは自分できちんと償え」




それから、と光輝さんは胸ポケットから一枚のあの写真を取り出した。瞳の色が真っ青な白い猫。依頼されていたあの猫だ。




「この猫だけは俺が届ける」




光輝さんの言葉にもう一度、男は力なく頷いて「すみませんでした」と頭を垂れた。




伊織と俺は黙ってその様子を見つめてた。




この男は家族を救いたくて猫を攫った。偽りの幸福の中にきっと少なからず罪悪感はあったんだろう。まだやり直せる。後悔があるのなら、償えるはずだ。




男の住んでいる家の中には、連れて来られた猫が何匹も居た。皆ゲージに入れられていたけれど、乱暴された形跡は何も無く、怪我をしている猫は居なかった。




だけれど皆、俺の顔を見て悲しそうに≪帰りたい≫とそう言っていた。




【大丈夫、帰れるよ。ちゃんと帰すよ】




縁側でぼんやりと座っているおばあさんは、俺達の姿を見ると「お友達?」と微笑んでいた。




「そうだよ」と頷いた男の瞳から、涙が零れ落ちるのを見た。後悔や悲しみ、触れなくてもその気持ちは痛いくらい伝わってきた。




「お前、あのこえー人と知り合いだったのか?」



「光輝さんの事?」



「何か知ってる風だっただろ」




あの猫達は男の手できちんと元の居場所に返されるはずだ。光輝さんは最後、あの男に「俺が一緒に着いていく」とそう言っていた。




光輝さんが最後まで見届けてくれるのなら、大丈夫なような気がする。




あの人の事は良く分からないけれど、信じて良いと思うから。




「あの人は何でも屋みたいな事やってるらしい。猫失踪事件で依頼を受けて探してたんだって。シロの事、その依頼の猫と間違って声かけられたんだ」



「ふーん?」



「でも良かった、皆無事で」



「……そうだな」



≪後日きちんと光輝からご褒美を貰わねえといけねえな≫




それって俺も一緒に行かなきゃいけないって事だろ?絶対に報告しなかった事について怒られる。




今日は見逃してもらえたけれど、次会った時には何を言われるか分かったものじゃない。




「お前……生き物関連は専門外って言ってたよな」




隣を歩いていた伊織が、ふいに足を止めてそう言った。




「でも猫は見つかった」



「今回のはたまたまだよ。あの依頼した女の人が俺達に情報をくれたから」



「……お前、人探しは出来ねえの?」



「人探し……?」



「居なくなった人間は、探せねえの?」



「……伊織?」




ジっと俺を捉える伊織の視線は逸らされないまま。心の奥まで覗かれているような居心地の悪さを感じた。




「……人探し……は出来ない。本人が無くしたものじゃないと分からないよ。占いは万能じゃないから」



「……そうか。そうだったな」



「どうしたんだよ急に」



「いや、何でもねえ。聞いてみたかっただけだ。人探しも出来たらもっと金儲け出来そうだろ?」



「だからそういうのはやりたくないって」



「はいはい分かりましたよー。別に良いだろ、こっちから金額提示してるんじゃねえんだから。手相占いだってきちんと金取ってんじゃん」




そうかもしれないけどそうじゃないと言う俺に、伊織はやっぱり気の抜けるような返事を返すだけだった。分かっているのかいないのか。




だけれど人探しとそう言った一瞬見せた、あの悲しそうな顔は何だったんだろう。




懇願するような視線は何だったのか。




いつもと変わりない様子を見せる隣の伊織を見ていると、幻だったんじゃないかと思える程だった。




「何見てんだよ?俺の顔が格好いいって?知ってる」



「馬鹿」



「馬鹿って言う方が馬鹿」




屈託なく笑うと、「行こうぜ」と帰路を歩いて行く。その背中を追うように、俺もゆっくりと歩き出した。




後日シロにせっつかれて訪れた何でも屋の事務所には、異様な光景が広がっていた。




一瞬間違ったんだろうかと思う程。扉を開けた中には、見知らぬおばあさん達が数人、楽しそうな談笑をしながらもソファーでくつろぎながらお茶を飲んでいて、デスクには額を押さえて唸っている光輝さんの姿が。




「本当に良かったわねえ。可愛がっていた猫ちゃんが帰ってきて」



「コウちゃんにお願いして正解ねえ。コウちゃん何でも叶えてくれるから。この間なんて、うちの伸びきった木の枝も綺麗に切ってくれたのよ」



「うちの切れた蛍光灯の電気も変えてくれたしねえ」



「本当に優しい子よねえ。コウちゃんがうちの猫を抱いて来てくれた時、私嬉しくって涙がでちゃった。コウちゃんったら、手に沢山引っ掻き傷つけてきたのよ。うちの子暴れたみたいで、コウちゃんあれから怪我は大丈夫だった?」



「うるせえ。大体ここはシニア茶飲み会の会場じゃねえんだ。いい加減にしろ。窓から突き落とすぞババア」



「コウちゃんったら照れちゃって。お菓子まで用意してくれてるじゃないの」



「てめえらが茶菓子寄越せって喚いたんだろうが。ボケるのも大概にしろよ」



「この羊羹美味しいわねえ」



「っち」




凄い、あの光輝さんの恐ろしい形相ももろともしないおばあさん達の集いが出来てる。




「あら、コウちゃんお客様よ」




呆然と入り口で立ち尽くしていた俺に気が付いたおばあさんが、「こっちにいらっしゃい」と手招きしてくる。




光輝さんの表情は、心を読まなくても分かるくらい怒りに染まっていて【タイミング考えて来いよクソガキが】と内心でブチギレているのだろう事が容易に想像出来た。




だってこんな事になっているだなんて思わないじゃないですか、コウちゃん。




腕の中に抱いていたシロが、ぴょんっと下へと降りると光輝さんの元へと駆けていく。≪約束のまぐろちょうだーい≫と甘えたような鳴き声で駆けていくシロを見て、光輝さんは黙って腰を上げると部屋の隅にある冷蔵庫の中から刺身用にカットされたまぐろを取り出した。




本当に用意してたんだ。




「あなたも何かお願いに来たの?」



「あ、いいえ……俺はその、コウちゃんにお礼に」



「お前消されてえのか」



「光輝さんにお礼に来ました」



「あらそうなのー。じゃあこっちで一緒にお茶しましょう。コウちゃんが買ってきてくれた、美味しい羊羹もあるのよ」




再び手招きされて、断る理由も無いので足を向けると、シロにまぐろの切れ端をあげていた光輝さんは【てめえ正気かよ】と言わんばかりの視線を向けて来た。




だっておいでと言われたら、美味しいお菓子があるのなら、あとおばあさん達の話すコウちゃんの話面白いし。




「この間はありがとうございました。猫缶、顔面に受けるところだったから」



「そのまま凹んじまえば良かったんだ」




そう思うなら、放っておけば良かったのに。




おばあさん達の他愛ない話を聞きながらも、熱いお茶を飲む。羊羹は本当に美味しくて、光輝さんはまた「くつろいでんじゃねえ」と怒るのだった。




そうして最後に、消え入りそうな声で言うのだ。




「皆、返した」と。




顔を上げて光輝さんを見たら、視線はシロに向いたままだった。優しい指先がシロの頭を撫でていた。




「ありがとうございます」




皆帰りたいと言っていたから、本当に良かったと思う。




光輝さんがそう言うなら、それが本当なのだと分かった。




きっと皆、それぞれの家族の元で、大切な誰かの傍で喜んでる。




きっと皆、光輝さんに感謝しているに違いなかった。

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