第11話

「そういや、何をしに来たのでしょうか」


先生の言葉ではっ、とした。


そう、あたしは赤の絵の具が必要なんだった。


探していたはずなのに。


「赤い絵の具が足りなくて」


自分で取ろうとしたら、直ぐに先生が代わりに動いてくれた。


そんな細かい優しさに、少しドキドキしてしまった。


きっと憧れの先生と2人きりだから、緊張しているのかもしれない。


先生に恋愛感情を抱いているなんて、そんなはずはないだろう。


「そうでしたか赤、はこれとこれと……はあい。どうぞ」


先生が手渡してくれた。手が少し触れた。ひんやりとしている。


鮮やかなカドニウムレッド、少し鮮やかで半不透明なピロールレッド。


少し扱いが難しい毒性のある、黄みががった赤い高級なバーミリオンまで。


「あ、ありがとうございます」


やっぱりなんか、緊張なのか。声が少し小さくなってしまった。


「いいんですよ、先生に沢山頼ってくださいね。鈴宮さんは先生にとって特別な生徒ですから。」


全然何でもないかのように、先生はさらっと言ったことだけど。


特別な生徒。


その言葉であたしの心はふわふわと羽根が舞うかのような甘い気持ちになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る