第6話
それから二人とも黙ったままお互い窓の外の景色をわざとらしく眺めていた。
結局アパートに着くまで会話なし。
なんとなくぎこちないけれど、一応お礼を言ってタクシーを降りると背後から課長が話しかけてきた。
「そうだ、坂井の部屋って何番?」
「は?」
「念のため」
念のための意味が分からないんですけど。
「言うわけないじゃないですか」
「……あっそ。ならいいよ」
そう言うと課長はそのままタクシーを走らせて行ってしまった。
何アレ。
「いいんなら聞かないでよ、なんなのよもうっ」
くるりと向きを変えてアパートへ歩き出したとき、ふと気がついた。
坂井って言った?よね…。
部屋に帰っても、さっきの課長の言葉が気になって仕方ない。
『お前のことずっと見てたから分かるんだよ!』
どーいう意味だろ?
社畜として監視してたから?
部下として気を配っていたから?
それとも女性として…
いや、あの腹黒課長に限ってそんなはずはない!
単に風邪気味の私が菌をまき散らさないように見張ってただけ…ていうのが正解かもな。
じゃあ、耳まで赤くなってたのは……。
いや、考えるのはよそう、明日からの仕事に響きそうだし。
うわ~、この社畜発言、自分で言ってて虚しい…。
「っくしゅん」
やっぱり風邪なのかな?
確かに今日はクシャミがよく出る気がする。
心なしか寒気もするし、薬でも飲んでおこうかな…確か薬箱にあったはずだし。
クローゼットの中に友達の結婚式の時にもらった引き出物の空き箱を利用して、薬箱にしている箱がある。
その箱を開けて常備薬を探してみたけれど、タイミング悪く風邪薬が切れていた。
どうしよう、今からじゃ薬局は開いてないし…
生姜があれば民間療法でなんとかしのげるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます