第4話

誰かが、彼を王子様みたいだって言っていた。




「誰にも見せたくないなぁ。」


「氷雨?」



小さく声を漏らした彼が、私の一言で目を見開かせた。




「……氷雨?」


「あっ…ひー君。」




いけない。


約束を破ってしまった。


慌てて手で口を覆いながら言い直す。




「いけない子だね、日鞠。」


「ごめんなさい。」


「日鞠“だけ”は僕の事をひー君って呼ぶって約束でしょう?」


「…うん。」




口許は緩んでいるけれど、ひー君の瞳は氷のように冷たく見える。



声だって、今はいつもより冷たくて温度がない。





「お仕置きだね。」


「え…ごめんなさいお仕置きは…「僕の言う事が聞けないの?」」




遮られた言葉に、私の口が完全に固く結ばれる。





何も言えない。


ひー君に逆らっては駄目。



理由とか、根拠とか、そういう物はよく分からないけれど、とにかく口を開いてはいけないのだと脳が信号を出してくる。



長年の間に刷り込まれた、癖というか習慣というか。そういう類の物だ。




「お母さん達、僕と日鞠は少し部屋に行ってるね。」




リビングに響く彼の声に、談笑を一時中断させた二人がひらひらと手を振った。



「行ってらっしゃい。」


「仲が良くて嬉しいわ。」




見送られて、ひー君に手を引かれるまま連れて来られたのは私の自室。



躊躇なく扉を開いたひー君は、すぐさまそれに施錠した。

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