第54話

突然名前を呼ばれるからドキッとする。


「彩さん、て呼ぶから距離が縮まらないのかな?身体の距離はゼロなのになぁ。」


浦崎君は笑いながら冗談ぽく言う。

そんな事言われると混乱する。


「俺の事も凪、でいいから。」


「そ、それは無理っ!」


そう言うと彼はちょっと呆気に取られたように私を見る。


「え?どっちの話?菜々、て呼ぶコト?俺の名前呼ぶコト?」


「浦崎君の事な、名前で呼ぶのはまだ高度過ぎるから。」


言いながら汗が出てくる。

今の私の顔きっと真っ赤だ。


「……ふうん、高度ねぇ。」


彼は何か含んだような言い方をする。


「まぁいいよ、そんな事考えられないようにすればいいだけの話だね。さ、ランチ行こう菜々。」


そう言って私の手を握る。

少し体温の低い彼。

なのに私は体温が動悸と共に余計に上昇した。

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