第58話

終業時刻になり、重い腰を上げて向かう先は奴の居る車だ。





『流石に三日連ちゃんで同じ服はやめろよ?』



 冷やかしてくる先輩方に嫌気がさす。






 これから自宅に寄って、ちゃんと着替えを持ってくるもんね!と思いながらも、愛想笑いを浮かべながら受け流す。



 こういう事に敏感なんだから、うちの社員さんたちは。本当こっ恥ずかしくてやになっちゃう。






 そして事の張本人様は、本日も優雅に煙草を吹かしながら私を出迎えるのだ。





「ちんたら歩いてんじゃねーよ。早く乗れ、杏不足。キスさせろ!!」




 運転手並びに、助手席の強面の存在なんぞ空気の様に扱う俺様は、人目を憚らず私の唇を奪うのだ。














「ちょっと、どこ触ってんのよ!!」



「どこって、杏のデッカイ乳。」






 淫らなキスで意識をもってかれると、いつの間にやら服の隙間から侵入してきた詠斗の厭らしい手が私の乳房を包み込んでいた。



 






「――――お前着替えそれしか無いのか?」


「ええ、薄給独り暮らしのOLは洋服買うのも大変なのよ!!」




 我が城、ヤサグレ荘前で停車するのは、場違いなフルスモークなセダン車。



 旅行用の小さめの鞄に下着と洋服を数組だけ入れて戻ってみれば、そんな小言を突かれて....



 勿論まだまだ服は持っているんだけど、長居するつもりが無いから最低限のものだけ持ってきたのは事実。





「なーんだ。男に買ってもらってる訳じゃないんだな。」



「生憎と物を受け取る趣味は無いわ。情が湧いちゃう....。」



 ぽろっと吐いた本音は、小さくて聞かれたかなんて分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る