第20話

「いってらっしゃ〜い。」とゆらゆら手を振るケンちゃんを背に、私は急いでフロントへと向かった。





 エレベーターの中で、沸々と湧き上がる怒り。握り拳を作りながら、奴の顔面を引っ叩いてやろうかと躍起になる。





 けれど扉が開けば....戦意喪失。






「遅い。」





 本日もお勤め途中なのか、セクシースーツ男子様。



 その背後に強面二人を引き連れて、フロントスタッフも、その恐ろしさに恐怖し震え上がっていた。






「あんたいい加減にしなさいよ。私はあんたの女になった覚えは無いわ。」




 殴る勇気はございません。手を出したら、その二匹のゴリラにどんな報復されるか、....恐ろしいわ‼︎






 腕を組んで仁王立ちする男の前に、負けじと私も奴を見上げ睨みつける。






「あんたじゃねーだろ。詠斗えいとだ。」




 奴の名前なんて、若頭山田わかがしらやまだとしか認識していなかったものだから、突然の自己紹介に呆気にとられて、ずっこけた。



 といっても、実際に転んだ訳じゃない。



 ただ膝がガクンと崩れただけ。






「ほら、呼んでみろよ。」





「なんで、無理。山田さん。」




「山田は俺の苗字じゃねーよ。」





 あれれ?違うの?

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