共犯者

あぷろ


 私があの方とはじめてお会いしたのは10歳の頃でした。

 何て美しい方だと驚きましたのをはっきりと覚えております。

 あの時は、お茶会を冠していましたけれどあの方の婚約者選びの席でしたわ。とはいえ同じような年頃の子供は私くらいでしたから実質顔合わせに近かったのですけれど。

 ですからあの方が私の未来の・・・・・・と幼心にもドキドキしてしまってその夜はなかなか寝付けませんでしたわ。

 そうしてあの方が学園で学ぶために親元を離れ寮生活となり、従兄弟と知り合い少々やんちゃをはじめたと聞いた時伯母様は倒れそうになり私は申し訳なく思いましたわ。絶対従兄弟が主導ですもの。

 あの方に迷惑をかけないでって何度も従兄弟に手紙を出しましたのよ。

 それも私が12歳で同じ学園に入学してからは杞憂と知りましたけれど。

 あの方と従兄弟が一緒にいる所を見かけまして、成程あれが世間でいうところの悪友ってやつですのねと納得したからですわ。

 それからは三年は何事もなく平和に過ぎていきましたわ。

 時々は従兄弟とあの方の話を聞きましたけれども。

 そして教会擁する聖女が入学してきましたの。

 何でもその聖女は異世界からの稀人でこの世界を学ぶための入学ということでしたわ。

 まあ・・・・・・と思いましたわ。私たちとさほど変わらない子供が親から離されるなんて、きっと心細い思いをしているでしょうと。

 そりゃあ私たちも親元から離れていますけど、私たちは家に帰れることができますでしょう?

 彼女はそれが出来ないのですのよ? お可哀想でしょう?

 ―――ええ、私たちも最初は同情的でしたのよ?

 困ったことがあれば手を差し伸べてさしあげましょう、と思っていましたわ。

 それが彼女自身の手で台無しにされましたけど。

 最初は王弟殿下だったかしら?

 王弟殿下が彼女に付きっきりになり、その護衛、王都で一番の商家の息子など次々といろんな殿方を侍らせていったのですわ。

 その中に私の従兄弟とあの方を見つけた時は目眩がしそうでしたわ。

 でも、すぐにあの方の目的はわかりましたわ。

 これでも伊達にあの方の婚約候補としての教育を受けておりませんので。

 ですから私、あの方に訴えましたのよ。

 恥も外聞もなく、必死で。

 「―――本当に聖女に御心を奪われたわけではありませんでしょう? ならばあなたの隣は私でも構わないはず。私ならば一緒の地獄を歩けますわ。どうか私をお選び下さいませ」

 私の言葉にあの方は、一瞬、目を見開いてからふっと笑みを浮かべました。

 「・・・・・・参ったな。すっかりバレているの」

 「ええ」

 「・・・・・・聖女がちょうど良いかなと思ったんだ。後ろにいるのは教会くらいだし、こう云っては何だけどあまり深く考える性質でもなさそうだし―――」

 「でも彼女は自尊心は高そうですわ。それがリスクといえばリスクでしょうか」

 「そう、そうなんだよな・・・・・・」

 ふうと軽く息を吐くとその美しい瞳が真っ直ぐ私を射抜きます。自然と私の背も伸びます。

 「―――それで私と一緒に地獄を歩くとしてあなたに何の得がある? あなたには何もないでしょうに」

 「ありますわ。あの時、心を奪われた方の妻となるんです。これ以上の何がありまして?」

 「それならなおさら地獄でしょうに・・・・・・」

 「構いませんわ。覚悟は出来ております。それに妻の座を誰かに譲りましても地獄には変わりませんわ

 「まいったな・・・・・・」

 そう云ってあの方はしばらく考えているようでしたけど、やがて私を見ると仕方ないなというように微笑みました。

 「―――では、よろしく。君が私の妻だ」

 差し出された手を握り返しながら、私はホッと身体の力を抜きました。

 これが私があの方の婚約者という地位を手に入れた経緯です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る