恩愛の除霊師

羽の赦し記録者

第1話 プロローグ 6月10日午後5時過ぎ

6月10日午後5時過ぎ。

物語はここから始まった……。



「君には2つの1つの地獄を選ばせてあげよう。大切な友の記憶を忘れ、空虚な心を持ちながら一生を過ごすか…………霊能力者となり、友人の死を胸に刻んであやかしを祓い続け……己がいつ死ぬかもしれない死地へ毎日のように身を投じるか。好きな地獄を選びな」


人差し指と中指をそれぞれ立てながら、口に笑みを浮かべて黒い着物の羽織に袖を通しながら白いポロシャツと赤いスラックスを着た眼鏡の二十代前半といった黒髪で美形…………それこそモデルをやっててもおかしくないと思いつつ、その男は言った。


そして、その様子を見ているのは頭から血を流した同じく白い制服に赤いスラックスを履いた三白眼の青年だった。

口をへの字にしてバツが悪そうに目を背けている。


その青年は心の中でこれは茶番だと思っていた。

何を答えるにしても、質問されている人物に選択権は無いと。

『あの力』に目覚めしまった以上、質問されている人物は暴走する。または凶悪な悪霊に襲われる危険性があるため、己でその力を御さなければならない。

そのためには霊能力者になるのは避けられない行為だ。

だから、選択与えてる人物。自分の教師に当たる者には他の選択肢を与える気がないのである。

しかし、この業界には覚悟が必要だ。


何せ、強くなるために『他の霊、もしくは他者の死に様を見る』という行為は霊能力者としての質を上げるためには必要不可欠な行為だからだ。


それこそ、自分が単独行動が許される霊能力者になるのに百を超える屍や悪霊を見てきたのだから…………。

だが、自分の教師…………全霊能力者最強と言われる己の教師はその才能もあるだろが二十代前半にして恐らく万を超えるであろう屍や悪霊を見てきたのは確かであろう。

それがどれ程の途方もない憔悴感ややり場のない己の力不足感を感じたのか…………。

その回数は自分には分かるはずもない。


だからこそ質問しているのだろう。

『あの力』…………。

霊能力者の中でも通常ならば余程の血筋か才能の塊でなければ到達しえない高み。


イタコという能力に目覚めたあの青年の覚悟を…………。


「俺は…………」


青年が口を開く。憔悴し切った目で……でも、確かなる覚悟を内に秘めた目で。


「俺は…………もう誰も目の前で死なせないために二つ目の地獄を選びます!!」


それが青年。

六道零也(ろくどうれいや)の選択だった。

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