第19話 偽物なのも尊い

「千田くんにお願いがありまふ!!」


 朝、教室に着くと開幕から勢い良く放たれた東都の言葉。勢い余って語尾を噛んでるのは尊いな。


「急にどうしたよ」


「えと、その、あの……」


 噛んでしまったことを恥じている訳ではなく、これから言うことを恥じているような感じ。


「わた、わたた、わたたたた!」


「落ち着け。格ゲーの攻撃音声みたいになってるぞ」


 指摘してやると、ふぅと一息吐いてからようやくと要件を言ってのける。


「私と、花火大会、行ってくれない?」


「花火大会?」


 唐突な誘いについおうむ返しをしてしまう。


「えっと、実はね……ここ最近、知らない男子からいっぱい告白されちゃって……」


 そういや最近、東都はやたらめったら告白されているのを目撃する。


「ごめんなさいで終わる人もいれば、理由を聞いてくる人もいてね。理由を話してもしつこい人が何人かいたんだ。しつこいから、その……」


「もしかして、彼氏がいるってウソついた?」


 コクリと頷く。


「もしかして偽物の彼氏役?」


 自分を指差して首を捻ると、小さくコクリと頷く。


「偽物の彼氏ねぇ……」


 まぁでも、東都と偽物でも恋人なんて嬉しいかも。


「でも、偽物の恋人を用意したんなら、花火大会は行かなくても良いんじゃない?」


「あ、えっと……」


 あからさまに目をキョロキョロとさせて動揺している。


「そ、その、しつこい人の中に、『俺と付き合った方が良い』って言ってくる男子もいて……それで、『大好きな彼氏と行く花火大会の方が楽しい!』って言っちゃったんだよね……」


「架空の彼氏大好き宣言しちゃったか」


「架空の彼氏大好き宣言しちゃった……」


 はぁとため息を吐いた東都。


「毎年花火大会は楽しみにしてるから行きたいんだよね。でも、その時に彼氏がいないと、その人達に見られたら、またしつこくされるかもって……」


 こりゃ俺が一肌脱ぐっきゃない。


「俺で良いのなら、付き合うよ」


「ほんと!? やたー!!」


 無邪気に喜んでいる。


「ま、ウソは良くないがな」


「うっ、そうだよね……」


 喜んだと思ったら一気にダメージを受けている。


 うーん。この落差すらも尊いな。


「でも、ここ最近、やたら告白されている東都を見ていたら助けたくなる」


「あ、見られちゃってた?」


「どこでもかしこでも告白されていたからな。何度か目に入ってたよ」


「あはは……そうだよね」


 苦笑い一つ。


「引き受けた以上は任せろ。完璧な東都の彼氏を演じてやるよ」


「お願いします」


 こうして俺は東都の彼氏役として花火大会に行くことになった。

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