2-16.目の前のバカを追ってしばき倒せ大作戦・再
ユアたちは蛇連組のアジトに戻り、マナとケンタロウが救急に運ばれていくのを見送った。これで、二人はもう大丈夫だろう。
「お二人もご無事そうでしたし、いきましょうか」
なぜこんなにも元気なのか、心配したシュウダイは思わず声をかけた。
「ちょ、ちょっといいかい? ユアちゃん」
「はい?」
「疲れてねぇのか?」
「まぁ、少しは。でも大丈夫です!」
ドヤ顔を浮かべながら、両手を前に出してグッと拳を握る自信満々なユア。シュウダイの心配はかえって増すばかりだった。本当に、彼女は人間なのか?
「お、おう。無茶はすんじゃあねぇぞ?」
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ユアが蛇連組のアジトに戻っていた頃、上原は一人そそくさと荷物をまとめていた。蛇連組のアジトにいた組員の一人が、アカナの悪事が外部に漏れたと彼に報告していたのだ。
これでもアカナの悪事に最も加担した人物。彼のことをよく思わない組員も当然いる。そうとなれば、今の組織に残ることは彼にとって不利益被ることは明白だ。
「アカナさんには悪いが、俺はこの街を出させてもらうぜ! くそっ! なんでこんなことに」
まだアカナが倒されたと知らない上原だが、逃亡先にあてがあるようだ。まだどこか心に余裕を持っていた。
「何を言われるかわからねぇが……あの人のところに行くか」
ぶつぶつと言いながら、上原は必要なものをまとめ、裏口から外に飛び出た。裏路地を三回曲がればすぐそこにバス停がある。そこまで辿り着ければ、彼の勝利だ!
が、
「あ! 来ましたよ!」
昼間に自分のことを追いかけてきた小柄な少女が、まるで付き合ったばかりの彼氏でも見つけたかのような嬉しそうな表情を浮かべながら、こちらを指差してきた。
その横には、腕を組んだゴリゴリマッチョマンが、
「目論見通りだな」
そして、
「おっ、久しぶりじゃあねぇの〜?」
かつての上司の姿が!
「げっ!」
先回りされていた。
見込みが甘すぎた。途中で彼らを撒いた時点で、すっかり諦めたものかと思っていた。
(くそ! 迂闊だった!)
このまま捕まるわけにはいかない。上原はバス停に背を向け、反対方向に駆け出した。
「なっ、おい待て! かつての上司さんに挨拶もなしに逃げようってのかぁ〜!?」
「さぁ、今度こそギオンさん命名の『目の前のバカを追ってしばき倒せ大作戦』を実行するときですよ!!」
ギオンは「まだそんなこと覚えていたのか」とギロッとユアの方を睨んだが、今はそんなことはどうでもいい。まずは目の前のあいつだ。
「あぁ。とっ捕まえて黙らせてやる」
「ぎ、ギオンの旦那。情報を聞き出すってことも目的にあるのを忘れないでくれよ?」
「わかっている。ユア、手っ取り早く捕えるぞ」
「任せてください。昼間の戦闘で知見を得ていますので、もう逃したりなんかしませんよ! さぁ、たんこぶの一つくらいは覚悟してもらいましょう!」
ユアは言うと、能力を発現。杖を野球ボールくらいの大きさに丸め、上原の背中めがけて全力でぶん投げた! 当然、能力が働いている。つまり、雑に投げたボールは彼女の思い通り、自由自在に操れるということ! それが意味することは!
ゴンッ!!
「いっでぇぇ!!??」
上原の脳天に、綺麗にボールがぶち当たるということだ!
綺麗なクリーンヒットである。たんこぶどころか脳にもダメージが入っていそうな感じだが、ユアはそこまで考えていない! なぜなら、目の前のバカをしばき倒すことがこの作戦の目的なのだ!
「く、くそっ!!」
地面に倒れた上原は両手をつき、すぐに立ちあがろうとしたが。すでにシュウダイが次の手を打っていた。
「おれの特技忘れたわけじゃあねぇだろうなぁっ!!」
今度はシュウダイが果物ナイフを、彼のふくらはぎ目掛けて一直線に投げ飛ばした! こんな鋭利な刃物が突き刺さろうものなら、涙が出るどころではすまないだろう。
上原は、逃げることよりも避けることを優先した! まだ立ち上がりきれてなかった彼はそのまま横に転がり、ナイフの攻撃から逃れた。
「あぶねっ!!」
しかし、この選択が不味かった。
そう、ゴリゴリマッチョマンの四野原ギオンがすでに間合に入っていたのだ。彼は、左足を後ろを振り上げ、
「せぇっ!!」
上原ユウトの腹めがけ、渾身の蹴りをお見舞いした!
「ぐふぅっ!?」
ドスゥッ! という鈍い音と共に、上原は宙を舞った。
これで終わり、ではなかった。
「でりゃあっ!!」
ギオンは容赦なかった。空中に放り出され、無防備になった上原を空中で殴り、地面に叩き落としたのだ! 上原は見事に地面をバウンドし、うつ伏せになった。
「がぁっ!! う、ぐぅ……」
短時間で大ダメージを負った上原はもはや指一本動かせない。それなりに重傷だ。しかし、ユアたちにとっては関係のないことだ。むしろ、ここからが本題なのだから。
上原が意識を手放そうとした瞬間、シュウダイが彼の服の襟首を掴み上げた。
「さぁ〜てさてさてさてさてぇ〜? お前にはよぉ〜? 聞かなきゃならねぇことが山ほどあるんだよなぁ〜!?」
「な、なんなんだよぉ!」
「テメェが偽モンの鴉作った件についてもそうだが、人身売買をしていたとかよぉ〜? とにかくたくさんあるんだぜ、聞かなくっちゃあならねぇことってのがよぉ!」
「へっ、だ、誰がしゃべるかよクソッタレ! それに、まだアカナさんだって」
「ほぉー、信用してんだなぁ新しいボスさんのことをよぉ〜? でも残念ながら、そのアカナさんなら今頃川底に沈んでるぜ」
「は?」
「そこにいるユアちゃんがな、決死の捨て身で相打ちに持ち込もうとした結果ってわけよ。ま、おれとギオンの旦那がギリギリでユアちゃんの足を掴んだおかげで、そのアカナさんだけが落ちてったってわけなんだがな」
上原は「そんなバカな」と声が出そうになったが、言霧ユアも固有能力者だということを思い出し、納得するしかなかった。
「話していただけませんか? でないと、アスミの悩みを解決することができませんので」
「アスミ? あ、あいつの差金かお前ら?!」
「あいつ?」
アスミのことを"あいつ"呼ばわりしたことに腹を立てたシュウダイは、静かに微笑みながら上原の横にしゃがみ、地面に寝そべる上原の顔面にナイフの刃先を突きつけた。
「おーおー、親分のことをあいつ呼ばわりか? こりゃあ、ナイフの一本はしゃぶってもらわなくっちゃあならねぇよなぁ!?」
「ま、待て。わかった! 話す! もう全部話す! 降参だ!」
「だってよ、ギオンの旦那!」
シュウダイはギオンの方を振り向いた。見るとギオンは一人、上原の荷物を漁って怪しいものがないか物色していた。その中のある書類を掴んだまま、険しい表情を浮かべていた。
「──ん? どうしたよ、ギオンの旦那?」
「ギオンさん?」
無視をしているわけではなさそうだ。どちらかと言うと、二人の声が聞こえていないようだった。
「……なぜだ」
ポツリと呟いたギオンの声が震えていることに二人はすぐに気づいた。あまりにも、珍しい。あのギオンに限って──なぜこんなにも恐怖しているのか?
「上原ユウト、本当のことを全て話せ」
「へ、へっ?」
「なぜ」
ギオンは手に持っていた書類を、上原の顔面に突きつけた。
「なぜ、この人身売買の顧客リストに、『四野原イノン』の名が載っているっ!?」
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