第31話 千夜の伝えたいこと
私、豊川千夜は、つまらない人間だと自分で思ったことがある。
小さい頃から親に言われたことばかりやって、友達と遊んだことは一度もない。だから誰かと遊ぶ楽しさを私は知らなかった。
「千夜ちゃん、一緒に遊ぼうよ!」
「すみません、今日はピアノが……」
(本当は一緒に遊びたい。けれど……)
最初は遊ぼうと誘ってくれる人が何人かいた。けれど、習い事があり断り続けると次第に私を誘う人は減っていった。
断るのが申し訳なくて何度か習い事を休みたいと親に話したことがある。けれど、親は遊ぶことより習い事をしている方がためになると言われ、遊ぶことを許してはくれなかった。
だから遊ぶことは私にとって憧れだった。ゲームしたり、公園で遊んだり、誰かと遊ぶことはこれまでずっとなかったから。
言われたことばかりをやる私は多分、周りから見たらつまらない人だろう。
自分自身もそう思っていて、つまらない人生を送ってきたが、彼と出会って私は毎日が楽しい日々へと変わった。
『あの、飛鷹くん。少しお願いがあるのですが、私に遊びを教えてください』
クラスが一緒で、家が隣同士だが話したことはない飛鷹秀くん。困っている私を助けてくれただけの彼だが、私は仲良くなりたいと思った。
他の人に頼むこともできた。けれど、私は彼を選んだ。
『勝ちました』
『ほ、ほんとに初めてなんだよな……?』
『えぇ、たあの初めてです。とっても楽しかったです。やはりこっそりゲーム機を買うべきですかね……悩みます』
憧れていた遊びをすることができて、ゲームをしている間はずっと楽しかった。
彼と過ごす時間は私にとってどれも大切で、これからもこんな日々が続けばいいなと思っていた。
けれど、ここ最近、秀くんと一緒にいる時間がなくなるのではないかと少し寂しさを感じていた。
ファミレスで秀くんと矢部くんがドリンクバーに行ったとき、私は後から遅れて飲み物を入れに行こうとした。
『舞に告白された』
『そっか。もう返事はしたのか?』
『返事はいらないって舞に言われてしてない』
『そうか……いらないって言われてなかった秀はどうしてたんだ?』
『……俺は』
中村さんと秀くんが中学から仲が良くて、私より彼女の方が彼のことをよく知っている。どちらかが好きになっててもおかしくないし、もしかしたら両想いなのかもしれない。
そう思うと少しモヤっとしてしまった。
文化祭の準備期間。秀くんと校内を回った日があった。その日、私は文化祭一緒に回ろうと彼を誘った。
中村さんが秀くんに告白したことを知り、私はなぜか焦っていた。
取られると思ったから? もう一緒にいられないから最後に彼との思い出が欲しいと思ったから?
違う。私は飛鷹秀くんのことをいつの間にか好きになっていたのだから。
好きだと気付き、彼と海へ行く当日。
私は決めた。中村さんが好きなら私も告白しようと。迷ってる時間はない、ここのまま想いを伝えずに終わると私は絶対に後悔する。
と決めたものの会ってからすぐに告白とはいかず、タイミングに困っていた。
(き、緊張して言えない気がしてきました……)
昼食を取り、海に行った後、雑貨屋へ立ちよった。可愛らしいアクセサリーや小物を秀くんと見て回る。
「これ、千夜に似合いそう」
そう言って秀くんが私に見せたのは水色のリボンだった。
いつも髪を結ぶときは黒の髪ゴムを使うため、この色のリボンは持っていない。
秀くんから水色のリボンを受け取るとそれを髪の毛に当てて鏡で確認した。
「似合い……ますか?」
「うん、似合ってる」
「! で、では……買います!」
「いや、俺が買うよ。プレゼントしたいから」
すっと水色のリボンが手元から離れ、秀くんはレジへと行ってしまった。
(好き……です。そういうところが)
両手を口に当ててゆるゆるになった口元を隠す。
会計が終わり、店を出ると秀くんに後ろを向いて欲しいと言われて私は背を向ける。
すると、彼は買った水色のリボンをつけてくれた。
「ん、やっぱり似合うな」
「……ありがとうございます」
思い出の場所に秀くんと来ることができて良かった。
(お婆様……5年ぶりに来ましたよ)
空を見上げ、お婆様とここに来た日のことを思い出す。
雑貨屋から離れると目的なしに海の近くを歩くことにした。
「そういや、ここに一緒に来たっていう千夜のお婆様はどんな人だったんだ?」
「お婆様は優しい方でしたよ。料理、裁縫……書道が上手なんです。私の憧れでした」
「……千夜はお婆様に似てるな。千夜も料理とか裁縫得意だし」
「そう、ですかね……お婆様に一歩でも近づけたらいいなと思ってましたのでその言葉は嬉しいです」
いろんな料理を作れるようになったこと、裁縫が上手くなったこと、伝えたい人はもういないけれど、お婆様はきっとどこかで見ていてくれる。私の頑張りを。
「この海はお婆様が気分転換にと言って連れてきてもらった場所なんです。小さい頃の私は、どこかへ遊びに行くことがあまりなかったので」
「そうなんだ……」
少し歩いているとお店があり、中へと入っていく。
日が暮れるまで俺たちは海の近くにあるお店を回ったり、観光スポットを巡った。
「秀くん、今日はありがとうございます。秀くんとこの海を見れて良かったです」
「こちらこそありがと。こんな素敵な場所に連れてきてくれて」
夕方の海は先ほど見たときよりキラキラと輝いており眩しかった。
お婆様と見たときと違う景色。この瞬間でしか見れない景色。
チラッと隣にいる秀くんを見て、私は彼の腕を人差し指でツンツンとつついた。
「秀くん。伝えたいことがあります」
決めたからにはもう言うしかない。私の気持ちを秀くんに。
「私がこの想いを伝えたら困らせてしまうかもしれません。ですが、私は伝えようと決めました」
私は彼の両手を取り、ぎゅっと握ると小さく微笑む。
「私は秀くんのことが好きです」
想いを伝えると、目の前にいる秀くんは驚くような表情をした。
「お返事は待ちます。答えが出たら教えてください」
「……わかった」
***
帰りの電車。千夜は疲れたのかすぐに寝てしまった。肩にもたれ掛かってきて、顔に彼女の髪が少し当たりこそばゆい。
「好きか…………。俺は千夜のことを」
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