第13話 親友との遊園地デート

 バスケの試合に勝ったら一緒に遊園地に行く。そう、舞と約束していたので、試合の翌週。俺と舞は、遊園地に行くことになった。


 遊園地は中学校1年生の時に行ったっきりだ。久しぶりなのは舞も同じらしい。


 電車に乗り、そこから歩いた先に遊園地はあった。ちなみにどこの遊園地するかを決めたのは舞だ。


 入場ゲートをくぐると舞は、嬉しそうにふふっと笑い、くるっと後ろを振り返り、俺のことを見る。


「遊園地デート、楽しもうね」

「いつからデートになったんだ?」

「ん……今? 少年よ、男子と女子が遊ぶならそれはデートと呼ぶんだよ」

「そう、なのか……まぁ、来たからには俺も楽しむつもりだよ」

「うんうん、楽しもっ。ってことで、最初はやっぱり……」


 舞は、マップを見て、ある場所を見つけるなりスタスタとそこへ歩いていく。どこに向かって行っているのかわからないが、俺は彼女の後をついていく。


 入場ゲートから少し歩き、舞が立ち止まった場所は、お土産などが売っているショップだった。お土産を買うのは早い気もするが。


 お店の中は、楽しそうなBGMがかかっており、いろんな商品が販売されている。


 キョロキョロといろんなものを見ていると舞にツンツンと腕をつつかれた。


「カチューシャ、おそろでどう?」

「……なるほど、カチューシャね」


 何がなるほどなのか自分で言っててわからないが、遊園地をとても楽しんでいる人はこういうのをつけているイメージがある。多分俺だけかもしれないが。


「いいけど、落ち着いたやつで」

「りょーかい、選ぶのは私に任せて!」


 拳をトンっと胸に当てて、楽しそうにカチューシャを選び出す舞。すると、選びながら舞は俺に話しかけてきた。


「そういや、秀って中学の時から欲しいのは安心して過ごせる環境って言って、彼女いらない感じだったけど、豊川さんのことどう思ってるの?」


「どう……って、普通に友達だけど。後、遊び仲間」

「やらしい感じの?」

「してない」

「ほんとかなぁ……。いつもは豊川さんとだけどこれからはたまに私とも遊んでほしいな」


 手を口元にやり、うるっとした目で見てくる舞に俺は少しドキッとしてしまった。


 すると、舞は、俺の顔を覗き込み、ニシシと笑った。


「こういうお願いされたらドキッとするでしょ?」

「なっ、別にしてない……親友にはドキッとしないから」

「親友でもドキッとしていいんだよ?」


 そう言って舞は、どんどん顔を近づけていくので、俺は少しずつ後ろへ下がる。


「それよりカチューシャどうしたんだよ」

「あっ、ほんとだ。選ばないと」


 舞はそう言うと俺から離れ、カチューシャ選びを再開する。そして決めたのか、彼女は、クマの耳カチューシャを俺に見せた。


「どうどう?」

「いいと思う。あんまりハデじゃないし」

「目立つの嫌いすぎでしょ」

「嫌いだからな」


 クマ耳カチューシャをお揃いで買うと俺たちは店を出て、ジェットコースターがあるところへ向かう。


「そう言えばあんまりこんな話したことないけど、舞は好きな人とかいるのか?」

「おっ、秀から恋愛トークが出るとは珍しい。いると思う?」

「ん……いたら遊園地に行こうなんて俺を誘わないだろうし、いない?」

「残念、半分不正解です。好きな人じゃないけど、気になってる人はいるよ。けど、今はバスケって感じだから恋愛はいいかなって思ってる」


 つまりバスケに集中したいから好きな人に想いを伝えることなんてことはないということか。


 身近にいたが、舞には好きな人、気になってる人がいるんだな。けど、好きな人がいるのになぜ俺を誘ったのだろうか。


「その気になる人は同級生?」

「うん、同い歳。仲良しだよ」

「ふーん……」 

「あれあれ、親友。もしかして妬いてる? 私が1番の親友だと思ってたのに他に仲のいい人がいると思って」

「別に妬いてない」

「というわりにはお顔が暗いよん」


 ツンツンと頬をつつかれ、ふにふにされる。その時の横から見る舞の笑顔は、いつも見る笑顔と同じはずなのにいつもと違って見えた。


「ね、秀は、恋愛ものの小説とか漫画とかよく見る?」

「恋愛か……ミステリーとかはよく見るが」

「ミステリオタクだもんね」

「まぁ、間違ってはないな」

「後、付け足すならバスケオタク」

「それは舞もだろ?」

「そうだね、私もバスケ好きだから」


 バスケは俺と舞にとって仲良くなる、親友になるきっかけを与えてくれたものだ。バスケをしていなかったら多分、舞とは仲良くなっていない気がする。


「てか、カチューシャつけてから写真撮ってないじゃん! いいところ見つけて、そこで撮ろう」


 舞は、そう言うと俺の手をぎゅっと握り、目的地なしに歩き出す。


 女子と手を繋ぐことなんてあまりない機会だが、連行されている気分が大きくてドキドキするはずが全くしない。


(逃げるわけでもないのに握る力強すぎ……)


「舞さんや、手が痛い」

「あっ、ごめんごめん。そういや今日はデートだからこうだね」


 舞は手の力を緩めると今度は指を絡めてぎゅっと優しく握った。


「デートだからってここまでやる必要はない気もするが」

「今後のための慣れだよ。いつか恋人できるかもしれないじゃん。お互いね」

「はぁ……舞は可愛いしモテると思うけど、俺は恋人とかまだ作れる気がしないな」

「……か、可愛い……のかな?」


 どうしたんだろうと隣を見ると舞は顔と耳を真っ赤にして、両手を頬に当てていた。


「俺は可愛いと思ってるよ。服とかオシャレで可愛いし、髪型とかも」

「……秀、だよね? いつもそんなこと言わないから私、困るんだけど」


 いつもそんな可愛いばかり言ってたら逆にヤバイ気もするが。彼氏でもないんだし。


「……ちなみに今してるポニテといつもバスケの時のお団子ヘアどっちが好き?」

「急な質問だな」

「気になるから……」

「……どっちも好きだな。けど、お団子ヘアかな。うなじが見えるし」

「う、うなじ……」


(ヤバイ、絶対引かれることを言ってしまった……)


 恐る恐る隣を見ると彼女は、引いて……はいなかった。なぜか目をキラキラさせている。


「わかる! うなじいいよね! たまに見えるっていうのがいい!」

「お、おう……」


 まさか舞がうなじ好きとは。いや、好きなのかはわからないが、俺の発言に引いていないようだ。


「うなじ好きなら今度からお団子ヘア多めにしようかな」

「好きとは言ってないが?」

「も~隠さなくていいんだぞっ。あっ、ここにしよ!」

「うおっ、急に引っ張るな」


 手を引かれ、連れていかれた先で俺と舞は、クマのカチューシャをつけて写真を撮った。


「ピースではいチーズ! よし、次!」

「何枚撮るんだ……」

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