第10話 メイド服を見てみたいか

 服屋から出ると次は豊川は行ったことがないというゲーセンへと向かう。


「テレビゲームでなくてもカーレースができるんですね」


 キラキラした目をして、カーレースを楽しむ豊川。その隣で俺も座ってカーレースをやる。小さい頃はよくやっていたが、久しぶりだ。


 テレビゲームではそんなことはなかったのだが、なぜだか豊川はカーブがある度に体が傾いている。

 

(可愛すぎるだろ……)


 体を傾ける必要はないよと言ってあげた方がいい気がするが、時々チラッと見て癒されたい。


「飛鷹くんには負けませんよ」

「俺もやるからには負けないから」


 彼女もそうたが、俺も負けず嫌いだ。中学の頃、バスケ部だったが、負けたくないという気持ちは誰にも負けていない気持ちでいた。


 だからこそ負けたとき、悔しい気持ちが大きい。


「ゴールです」

「負けか……強いな、豊川」

「ふふっ、飛鷹くんも強いです。勝ち負けは重要かもしれませんが、ゲームは楽しむことが大切だと思います」

「そうだな」


 カーレースを終え、次はどうしようかと豊川と話していると見覚えのある人を見つけて俺は「あっ」と声を漏らす。

 

 お団子ヘアで白のティーシャツ、黒のロングスカート。オシャレな服を着ていて、服に気合いが入っているようにみえる。


 隣には男子がいて、確か彼女と一緒でバスケ部員だったはず。


 じっーと見ているとあちらも俺たちのことに気付き、駆け寄ってきた。


「やあやあ親友、デートかい?」

 

 ニヤニヤしながら俺と豊川を交互に見るのは舞だ。舞の言葉に豊川は顔を真っ赤にしていた。


「普通のお出掛け。そっちは?」

「え~気になるぅ~?」

「いや、気にならないからやっぱさっきの質問はなかったことに」

「気になってよ!」


 舞がそう言うと俺と彼女は顔を見合わせてクスッと笑う。


「で、隣の方は?」

「隣のクラスでバスケ部の南くん。バスケ部の集まりがあってその帰り。だからデートじゃないよ」


 舞が紹介するの南はペコリと頭を下げたので、俺も軽く頭を下げた。


 女バスと男バスは別で練習していると聞いていたが、交流する場があるとは知らなかった。


「飛鷹、だよな? 中村からバスケが上手いと聞いてる」


 南にそう言われて、舞を見ると彼女は、親指を立ててグッとしてきた。何がグッなのかわからないが。


「じゃ、私たちはそろそろ行くね。邪魔しちゃ悪いから。またね、秀と豊川さん」

 

 舞は手を振り、南と一緒にどこかへ向かう。その後ろ姿を見ていると豊川に服の袖をぎゅっと握られた。


 暗い顔をして下を向いていたので何かあったのではないかと思い、心配で声をかける。


「豊川、どうした?」

「……少しジェラシーを感じてしまいました」

「ジェラシーって……嫉妬?」

「はい。あの……私達、と、友達ですし、これからは下の名前で呼んでもいいでしょうか?」


 顔を上げて、顔を真っ赤にしてそう言う豊川に俺はドキッとした。


「いいよ」

「! で、では、秀……くん」


(うん、可愛いしかない)


 素敵な遊びを教えて、同じ時間を過ごすようになってから豊川の可愛いが増している気がする。何やっても可愛いと思ってしまうのは重症かもしれん。


 名前を呼んだ後、彼女は名前を呼んでほしそうな表情をしてじっーとこちらを見ているので俺は彼女の名前を呼ぶ。


「千夜」


 緊張しつつ名前を呼ぶと千夜は、顔を真っ赤にして隠したいのか両手で頬を触る。


「……今日は幸せです」


 名前を呼ぶ度にこれじゃあ、彼女も俺も大変な気がする。これは慣れが必要そうだ。


「秀くん」

「千夜」

「秀くん」

「千夜」


 しばらく呼びあってあると面白くなったのか千夜は、クスッと笑い、つられて俺も笑った。



***



 ショッピングモールで昼食を食べた後は、いろんな店を回った。夕方になると彼女の家に寄り、素敵な遊びを教えてもらうことに。


 遊ぶときは俺の家で集まってゲームしたりすることが多いので、彼女の家に来るのはこれで2回目だ。


 俺の家とはあまり変わらないが、俺の家とは違って千夜らしい家だ。


「さて、さっそくやりましょう」

「何をやるんだ?」


 この前はポッキーゲームだったが、またああいう系だろうか。別に嫌ではないが心臓に悪い。


「やる前に先に秀くんには見てほしいものがあります」

「見てほしいもの?」


 俺はソファに座り、千夜は、目の前に立って少し恥ずかしそうにする。モジモジしていて、ますます今から何をするのか想像できない。


「秀くんはメイド服はお好きですか?」

「メイド服? いや、着る趣味はないが……」

「そ、そういう意味ではなく……すみません、質問を間違えました。もし、私がメイド服を着ると言ったら秀くんは見てみたいですか?」

「千夜のメイド服を……」


 なぜこんな質問を俺にするのか気になるが、俺は千夜のメイド服を着たところを想像してしまった。似合うだろうし、絶対に可愛いだろうな。


「見てみたくないといえば嘘になる」

「つまり見てみたいと?」

「まぁ……うん」


 見てみたいとハッキリ言葉にするのは恥ずかしく、小さく頷くと千夜は、くるっと背を向けどこかへ行ってしまう。


 しばらくすると足音が聞こえてきて、音のする方を見るとそこにはふりふりのメイド衣装を着た千夜がいた。


(……これ、明日は嵐が来るな)


 短めのスカートでいつもより肌が多く見えており、綺麗な足が見える。こういうのに着なれていないのもあり、少し恥じらっているところも含めて全て可愛い。


「その服、どうしたんだ? 可愛いし、似合ってるけど」

「! かっ、可愛い……ですか? ありがとうございます。とても嬉しいです。実は、この服は中村さんにもらったんです。手作りだそうですよ」


 手作りと聞いて俺は思い出した。そう言えば、舞は、衣装のようなものを作るのが好きだった。自分で着る用ではなく友達に着せることが多い。


「舞の作る衣装は凄いからな」

「ですね、凄いです。本物のメイドさんになった気分です」


 千夜はそう言ってその場でくるっと回る。スカートがひるがえり、危うく見てはいけないものが見えそうになった。


「そ、そう言えばどうしてこれを俺に見せてくれたんだ?」


 メイド服と素敵な遊びがあまり結び付かず、聞いてみると千夜は、スカートの裾をぎゅっと優しく握った。


「今日はメイドになりきってみたくて……秀くん、してほしいことはありますか?」


(まさか、今日の遊びはメイドさんごっこか?)


「日頃の感謝です。今日は何でもしますよ?」

 

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