男三人で異世界転移。〜物質転送装置で何でもお取り寄せ。よ、嫁さんも!?〜

白田 まろん

社屋ごと異世界に転移した

第一話

「異世界転移かな……」

「異世界転移だな……」

「異世界転移しちゃいましたねぇ……」


 俺たち三人は出来たばかりの新社屋の屋上から周囲の景色を眺めてつぶやいた。


 さっきまでは確かにビル群の中にいたはずだ。日本政府はもちろんのこと、各国からも資金提供を受けて都心の一等地に建てた真新しい社屋。


 しかしいざ屋上に上がってみるとどうだ。そこはどうやら森の外周部のようで、前方は五メートルほどまで木々が生い茂っている程度だが後方には果てしない樹海が広がっている。


 幸いその前方に生い茂る木々も、社屋の玄関前は幅六メートルに渡って平面になっているため先にある道に出るのに苦労はなさそうだ。いや、そんなことよりも誰かこの状況を説明してくれないか。


 株式会社おおうち商事の新社屋。地上五階地下一階のビルは建築面積が四十メートル四方の千六百平方メートルで、一昨日落成式を終えたばかりである。


 会社は俺こと二十八歳の大河内はるとしが代表取締役社長。中学生時代からずっと付き合いが続いている同い年のせきたけあきが専務取締役で、高校で知り合った一つ下の後輩しもとりようへいが開発部長だ。


 俺たちは三人でこの大河内商事を立ち上げた。


 物質転送装置。約十メートル四方、高さ八メートルの黒くて巨大な四角い装置はコの字型で、その中に転送対象を置くと指定した座標に物質を転送する。また逆に指定した座標から物を取り寄せることも可能だ。


 洋平が開発した物質転送装置は、当然のことながら日本のみならず世界に大激震を走らせた。彼はこれをあろうことかゴッドハンドなどと名づけたのである。ちゅう病丸出しで恥ずかしいったらありゃしなかったが、開発者の意見は尊重しなければならない。


 この夢のような装置第一号は新社屋の中心に設置され、起動の時を待っていた。そんな矢先の出来事に、俺たちは朝陽に染まるどこか中世っぽいオレンジ色の街並みを眺めて呆然としていたのである。


「なあ、お前ら神様とか女神様とかに会ったか?」

「オレは会ってないな」

「ボクも会ってません」


「遙敏はどうなんだよ?」

「俺も会ってない」


「とりあえずステータスとか言ってみません?」

「そうだな、それじゃ……」


「「「ステータス!」」」

「…………」

「…………」

「…………」


「なにも起きないな」

「なんも起きねえ」

「なにも起きませんね」


「そ、そうだ! ステータスってのはもしかしたら呪文が間違ってるだけかも知んねえし、やっぱここはメジャーな魔法のファイアボールとかじゃね?」

たけあきの言う通りだな」

「試してみましょう!」


「「「ファイアボール!」」」

「…………」

「…………」

「…………」


「なにも起きないな」

「なんも起きねえ」

「なにも起きませんね」


「てかこんなところでファイアボール出せたとして、森が火事になったらどうするつもりだったんだよ!」

「「あ…………」」


「あ、じゃないよ! そもそもこの世界に魔法があるかも分からないし、あっても俺たちに使えるかどうかも疑問だろ」


「なら情報収集からですね」

「洋平、頼めるか?」


「任せて下さい、大河内先輩。まずはドローンを飛ばして周囲を偵察しましょう。その間に人工衛星を造ります」

「そんなもの造ったって打ち上げられるのか?」


「打ち上げる必要なんてありませんよ。ボクたちにはもっと便利なものがあるじゃないですか」


「「か!!」」

「そうです!」

「いや、しかしなぁ……」


 そこで俺は重大な問題を抱えていることに気づいた。物質転送装置は起動と動作に膨大な電力を必要とするのだ。それこそ、かの初代デ○リアンが消費した雷ほどの電力がいる。


 しかし見渡す限りの街並みには電気が使われている様子はなく、遠くにそびえ立つ城のような建物ですらかがり火が焚かれている状況だ。城の窓からかすかに電球に似た灯りも見えるが、なんとなく揺らめいているのでロウソクかなにかだろう。もし仮に電球だったとしても、あれでは電力の供給が不安定としか思えない。


 とてもじゃないが物質転送装置を起動させることなど不可能ではないだろうか。


「でも大河内先輩、屋上ここに上がってくる時に灯りは点いてましたよ」

「言われてみれば確かに……」


 そういえば通路は明るかったし、何より五階までエレベーターを使ったんだった。社屋には自家発電装置も備え付けられているが、あれが動いている時は白色のLEDではなく照明はアンバー色に変わって点灯する数も減る。


 原理は謎だがが使えるなら人工衛星打ち上げにロケットなんか必要ない。上空の高さを指定して転送するだけで済むからだ。


「ここでぼーっとしてても始まりませんし、起動出来るか試してみましょうよ!」

「そうだな」

「そうしよう!」


 改めて屋上から五階のエレベーターホールに向かったが、通路にはLEDの灯りが煌々と灯っていた。ちなみに五階には俺たち三人の役員室と、宿泊可能な個室がいくつか整えられている。仕事で帰れなくなっても困らないように食堂と風呂まで完備だ。


 食事は基本ケータリングで賄うつもりだったが、広めのキッチンもあるので料理人を雇うことも出来る。もっともそんな予定も狂ってしまったわけだが。


「あれ? なんだろう。こんなものあったかなぁ」

「どうしたんだ、洋平?」


「いえ、このモニターなんですけどね」

「三十インチくらいか。これがどうかしたのか?」

「こんなモニターなかったはずなんですよ」

「洋平の勘違いなんじゃないか?」


装置これを造ったのボクですよ。勘違いなんかするわけないじゃないですか」


 洋平が首をかしげているのは、いくつも並んだモニターの端にある画面の色が他と異なるパネルだった。の壁に組み込まれているので後で置いたというわけではない。色はなんというか、起動もしていないのにほのかに虹色に光っている感じだ。


「ま、いいや。起動してみますね」

「「ああ」」


 洋平がIDカードを射し込み、虹彩と静脈認証を済ませると地鳴りのような音とともにいくつもの小さなLEDが点灯していく。それらの色は全てブルーかグリーンだ。イエローは警告、オレンジや赤はエラーを示すものがほとんどだが、ないということは装置は正常に起動していると思われる。


「きどうシーケンス、オールクリア」


 装置の状態を伝える女性の声が聞こえた。この声は物質転送装置のナビゲーションシステムによって発せられたものだ。洋平はをプリンセスと名づけた。ここでも厨二病が炸裂している。


「ゴッドハンド、きどうかんりょうシマシタ」

「プリンセス、あのモニターがなんだか分かる?」


「マスター・ヨウヘイ、ドコカノネットワークニリンクシテイルヨウデスガ、リンクさきガみエマセン」

「そう……」


「タッチスクリーンたいおうデスノデ、ふレテミテハいかがデショウ?」

「分かった。やってみるよ」


 装置が起動してさらに明るく虹色を発しているモニターに洋平が指先で触れる。するとすぐに画面が切り替わった。


「取り寄せ品カテゴリ……取り寄せ品を選択するにはGO……ここをタッチしろってことかな」


 画面上には浮き上がって見えるGOの文字が青く光っている。そこを彼が押すと横に六つ、縦に三つの十八枠に分割された。その枠に書かれた文字を見て、俺たち三人は悲鳴にも似た声を上げてしまう。


「肉、野菜、果物……」

「服、雑貨、酒……?」

「薬、玩具、飲料(酒以外)……」


 他にもまだあるが、極めつけはこれだった。


「「「武器、弾薬……へ、兵士!?」」」


 そして兵士の注意書きにはこうあった。

「「「非生物……?」」」


 物質転送装置は植物や菌類などの微生物は転送可能だが、人間を含めた動物を転送することは出来ない。だから兵士()というのは理にかなってはいるが意味不明だ。そしてなにより――


「「「怖い……」」」


 俺たちはしばらく、言葉を失ってその場に立ち尽くすのだった。



――あとがき――

分かりにくいかも知れないので補足です。

主要キャラは一人称表記で分けてます。

俺→おおうちはるとし(主人公)

オレ→せきたけあき(主人公の中学からの同級生)

ボク→しもとりようへい(高校の後輩)

※あらすじにも同じ内容を記載してあります。

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