第7話 迫り来る脅威
「君たちの仲間が捕まってしまったのだとしたら、パピヨンも危ういだろうな。ドン族はどんな手を使ってでも情報を吐かせる」
「そもそもフレイなんて口が軽いしね。自分が助かるためなら繭に案内して招き入れることだってあり得るんじゃない?」
ヴィヴィアンは辛辣だが、フレイの性格を考えると否定はできなかった。
「もしドン族が人を凌駕する知識を手に入れてしまったらどうなるの?」
「間違いなく人を殺めるための兵器を作ろうとするだろう。やつらは地上すべてが自分たちのものだと思っているからな。邪魔なレリクト……私たちを始末しに来るはずだ」
「……そして君たちも例外ではない」
私は、アレンシャの言葉に身震いした。それはみんなも同じようで、中には青褪めた顔をしている者もいる。
「ドン族よりも先にパピヨンを助け出すことは可能か?」
「今のうちならば出来るかもしれない」
「成功した暁には、パピヨンの知識を提供しよう。マヤ、問題ないな?」
ヨハネの言葉にマヤが頷く。
「シラフス族と君たちとで手を組み、ドン族よりも先にパピヨンを救出する……。パピヨンの知識がどの程度のものかは私は知らないが、ドン族を制圧するための提案をパピヨンと君たちにお願いしたい」
まだ動けないヨハネの代わりに、マヤが手を差し出す。
「なるほど。これが握手というやつだな」
アレンシャは笑みを浮かべて、マヤの手を握る。
ここに繭のメンバーとシラフス族の同盟が誕生した。
*
「明日の夜明けに此処を発ち、繭へと向かう」
そう言い残してアレンシャが部屋から去ったあとで、私たちは今後についての話し合いをしていた。ここでの身の振り方や、本当にシラフス族にパピヨンの知識を与えて良いのかどうか、私たちだけで別の拠点を確保すべきではないかというような内容だ。
「アレンシャたちは悪そうな人には見えない」
シエルは言った。
「けどよ、ヨハネを拷問したのは事実だ」
「それはドン族の仲間だと思われたからでしょう?」
「それだけとは限らねえだろ。信用しすぎるのもどうかと思うぜ」
私もそう思ったが、クロードに同意するのは負けた気がするので黙っていた。
「少なくとも幹部二人には良くは思われていないだろうね」
「確かに。ヨハネさんに対して謝罪に来る様子も無いですし」
マヤとクレアは冷静だ。
「でもさ、ドン族だっけ? そんな危ないやつらに狙われてるんだとしたら、多少危険でもシラフス族と一緒に居たほうが良いんじゃない? もしなにか起こったら、戦いの隙に逃げちゃえば良いんだし」
「逃げられなかったらどうするの」
イオの冷静なツッコミに、ヴィヴィアンは口を尖らせる。
「……とにかく」
ヨハネが体を横たえたままで口を開いた。
「今は眠ったほうが良いんじゃないか? 明日も早いし、繭までは遠いぞ」
怪我人であるヨハネは繭までの同行メンバーから外されている。
繭までの道のりを歩くのは私とシエル、マヤ、クロード、イオだ。
クレアとヴィヴィアンはヨハネと留守番となっている。
「そうだね。眠たくなってきちゃった……」
シエルの欠伸がうつる。
「……今日は色々あったしね」
「何かあったらどうするんだよ」
「俺が起きておくから休むと良い」
クロードはヨハネに言われて納得したようだった。ヨハネ、怪我人なんだから寝てればいいのに。
「それじゃあ、みんな、お休み」
マヤの声とともに、硬い床に横になる。バックパックを枕にしてみるけれど、寝心地は悪い。
それでも疲れ果てていたからか、私は何時の間にか深い眠りに落ちていった。
*
カンカンカンカン!
けたたましい音が鳴り響く。
何か夢を見ていた気がするけど、その内容を思い出す暇なんて無かった。
「なんだ!?」
涎を拭いながらクロードが叫ぶ。
ガラスなどない窓枠から下を見る。
外ではシラフス族の戦士たちが武器を手に門へと向かっている。
「敵が攻めてきたんだ……」
隣でマヤが呟く。
「みんな、準備して! クロードとイオはヨハネに肩を貸してあげて!」
振り向いたマヤはみんなに指示を出す。
私は寝ぼけ眼のシエルとヴィヴィアンに手早くバックパックを背負わせる。
「君たち!」
部屋から出ようとしていた時だった。通路の向こう側から走ってきたアレンシャとぶつかりそうになる。彼女の後ろにはタムナとイシナも居た。
「アレンシャ! 一体何が起きたの?」
「ドン族だ……! ドン族が攻めてきた!」
「ドン族って……。どうしてこんなにすぐに攻めに来たのよ!?」
「それは裏門へ向かいながら話そう。急げ!」
通路を足早に過ぎ去り、階段を降りる。ヨハネは辛そうにしているが、クロードとイオに支えられてなんとかついてきている。
アレンシャによれば、シラフス族の中に裏切り者がいたらしい。ヨハネを拷問した幹部のうちの一人だったのだと語った。
建物を出て、連れてこられた時とは真逆の方向へと進む。どうやら集落の真裏に出るらしい。
「いいか……。この門を出て南へ進め。そこにも集落がある。私たちほど物わかりの良い者たちでは無いが、少なくともここで戦いに巻き込まれるよりはよっぽどマシだ」
アレンシャは口早にそう言うと、門を開ける。また森の中を駆けなければならないのか、と気合を入れ直そうとした時だっだ。
門の外にはすでに土偶の面の一族……ドン族が数人待ち構えていた。その先頭に居る長い黒髪の女戦士を見て、アレンシャたちがたじろいだ。
「……ダ・ビ!?」
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