② 恋に気づいた日 (青春BL)




 高校一年の三学期。

 僕が学級委員長に立候補したのは、このクラスの問題児、ヤンキーの吉岡くんに近づくためだ。

「吉岡くん、ピアスはダメって言ったでしょ。学校では外してて」

「んあ!?」

 僕が注意すると僕の目の前まで近寄ってくる吉岡くん。

 近い近い!

 朝から心臓ドキドキだよ。

 上から僕を怖い顔で睨み付けるこの目!

 もう僕の心臓は爆発しちゃう。

「チッ」

 舌打ちしながらもピアスを外して僕に預けてくる吉岡くん。

 はあ~。

 なんてかわいいんだろう。

 いや、吉岡くんは今日もいつでも二十四時間カッコいい。

 あれは昨年の中学三年生の時。

 塾の帰りに知らないオジサンに声をかけられ困っていた僕を助けてくれたのが吉岡くんだった。

 その姿に一目惚れした僕。

 それがまさか同じ高校になるとは思ってもいなかった。

 がんばって勉強してやっと入れた進学校。

 そこにいたのが吉岡くんだった。

 そう、吉岡くんは顔もカッコいいし強いし優しいし、頭もいいんだ。

 僕にとってはスーパーヒーローだよ。

 なのに吉岡くんは髪の毛は金髪だしピアスなんて両耳穴だらけだし、授業もよくサボるしで一匹狼なんだ。

 声もかけづらい。

 そこで考えて思いついたのが学級委員になることだった。

 学級委員になって吉岡くんと話すようになってからは毎日が楽しいよ。

 あ、でも僕が一方的に注意しているだけなんだけどね。

 もっと吉岡くんと仲良くなりたいなぁ。

「あんたも大変だね」

 吉岡くんに預かったピアスを眺めていると、隣の席の柏木さんが話しかけてきた。

「何が?」

「委員長だからって毎日吉岡を注意してさ。大変そうだなって」

 僕も席についた。

「ぜんぜん大変じゃないよ。むしろ嬉しい」

 あ、思わず言っちゃったけど、まあいっか。

「嬉しい? ねえねえ、なにそれ~」

 なんだか突然身をのり出してくる柏木さん。

「え、だって僕、吉岡くんとお話したくて学級委員に立候補したから」

 僕が言うと柏木さんは目の玉が落ちそうになるくらい目を大きく開いていた。

「ちょっと待ってよ! それってもう好きなんじゃん! ラブだよラブ!」

「ラブ?」

「そういえば、三学期になってから吉岡授業さぼんなくなったよね。あれ、もしかして~?」

「ラブ……」

「そっかぁラブかぁ。いいんじゃない? がんばれよ委員長!」

 ラブ……。

「ええーっ!!」

 僕は思わず立ち上がっていた。

 僕のこの気持ちは恋なのか?

 そう思った瞬間、息が苦しくなった。

「委員長? 大丈夫?」

 心配そうに僕を見上げる柏木さん。

「ダメだ」

 僕は走って教室を出た。

 保健室にかけ込んでベッドに横になった。

 胸が苦しい。

 今まで吉岡くんに対するこの想いはただのヒーローへの憧れだと思っていた。

 でも柏木さんに言われてみると、これは間違いない。

 間違いなくこれは恋だ。

 僕は吉岡くんのことが好きなんだ。

 だってさ、吉岡くんとこうやって毎朝話せるの嬉しいし、カッコいいしドキドキするし、もっと仲良くなりたいし。

「うわー!!」

 僕は枕に顔をつけて大声で叫んでいた。

「うるせっ」

 え?

 顔を上げるとそこには吉岡くんが立っていた。

「な、な、な、なんでいるの!?」

 思わずそう言ってしまった。

「なんでって、お前が急に真っ赤になって飛び出していったからその、心配になって」

 吉岡くんはそう言うと背中を向けてベッドに座った。

「え?」

 僕も思わず起き上がった。

「やっぱり優しいんだね、吉岡くん」

「あ?」

「覚えてないかもしれないけど、僕、前に吉岡くんに助けてもらったんだ。あの日から僕はずっと」

 そこまで言って僕は口を閉じた。

 これ以上言ってはダメだ。

 いくら好きだと気づいたからって僕たちは男同士なんだ。

 そうだ。

 吉岡くんに恋したってどうにもできないんだ。

「覚えてるよ」

「え」

「覚えてるに決まってんだろ。てか、いつもあの塾の近くで見かけて、ずっとお前のこと見てた」

「へ!? ど、どういうこと?」

 僕はベッドから下りて吉岡くんの前に立った。

 吉岡くんの顔は真っ赤になっていた。

「そしたら変なオッサンにからまれてっから。俺がそばにいないと危ねえって思って、必死になって勉強した」

 ちょっと待って。

 それってさ、吉岡くんも僕のこと。

「えっと、あの、その」

「だから! 俺はお前のことが好きなの!」

 僕は嬉しくなって思わず吉岡くんに抱きついた。

「僕も、僕も好きだよ、吉岡くんのこと」

 抱きついて触れている吉岡くんの大きな体から心臓のドキドキが伝わってくる。

 いや、これは僕の心臓か?

 もうどっちでもいいや。

「ちょっと、委員長、これ以上くっついてると俺」

「え、あ、ああ、ああ~、そうだよね」

 僕は急いで吉岡くんから体を離した。

「じゃあ、教室に戻ろうか」

「おう」

 僕たちはほてった顔と体を冷ましながら教室へと戻った。

「帰り、一緒に帰ろうぜ」

「うん」

 せっかく落ち着いたのに、また鼓動が早くなる。

 僕は先に教室に入った。

「ふふーん」

 席についた僕を柏木さんがすっごくニヤニヤしながら見ている。

「よかったね、委員長」

 柏木さんに言われて僕はまた、顔を赤くしながらただうなずいた。



           完





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