ヤンデレ姉妹達のいる日常第三章第八話
「すみませんでした、のぼせてお風呂場で倒れてしまうなんて、情けないですよね」
「いや、それよりも。三日月が目を覚まして安心したよ」
なんでいきなり三日月が謝っているのか、それは数十分前に遡る。
脱衣所で気を失ってしまった三日月。このまま放置して風邪を引かせたらいけないと思い、服を着せたかったのだが。三日月が着てきたのは女の子が着ている服。幸いにも下着は男物を履いていたので、履かせる事ができたけど。女の子の服なんて着た事がないので、三日月が着ていた服をどうやって着せるか分からなかった。
たまたま浴室を通りかかった、雪ちゃんに助けを求めて。雪ちゃんが気を失っている三日月に服を着せてくれたので、なんとかその場は収まった。
いや、雪ちゃんは三日月の裸同然の格好を見てしまっているので。なんとかなっていない気もするが、緊急事態ゆえに気にしても仕方がないと思ったが三日月には黙っておくことにした。
三日月に服を着せても気を失っていて、すぐには目を覚まそうとしなかった。なので三日月をテレビのある部屋まで抱き抱えて休ませてあげた。気を失ってから数十分経って、三日月は目を覚ましたので今の状況に至る。
「あの……僕、そろそろ失礼します。零夜お兄さん本当にご迷惑おかけしました」
「あ、待てよ三日月」
三日月は起きて早々、部屋から飛び出て玄関の方まで駆け出す。呼び止めようとしても、既に玄関の引き戸を開けて靴に履き替えて外に出た後であった。
「三日月、めっちゃ足、速いな。もう見えない。あれ……これって、三日月が髪につけていたヘアピンだよな?。もしかして出て行こうとした時に落としていったのか」
部屋に戻ると、慌てて部屋を出た三日月が落としていったのだろうか、三日月が髪に留めていた三日月をモチーフにしたヘアピンを見つける。
「明日にでも届けてやらないとな……」
連絡できるならしたいが、俺は三日月の携帯や三日月の住んでいる家の電話番号を知らないから連絡ができない。今から届けに行こうとも思ったが、ヘアピンなら別に今から急いで届ける必要もないだろう、そう思って俺が父さんと一緒に寝泊まりしている部屋に行き、ヘアピンを机の上に置く。すると、部屋の襖を開けて、おばあちゃんが部屋に入ってきた。
「零夜、少し話をしないか」
「おばあちゃん……」
部屋にやってきたおばあちゃんに声をかけられる。雨姉さんの話を聞いた限り、おばあちゃんも五叶を祓う事に関係しているようだ。おばあちゃんに連れられやってきたのは、おばあちゃん家の縁側にある蔵の中。
「雨から聞いたよ、零夜は五叶を祓う事を納得してないみたいだね」
「俺は浮遊霊になったとしても、五叶の事は妹だとずっと思ってる」
「甘いねぇ、五叶はもう死んでしまったんだ。なのに浮遊霊としてこの世に存在してる。本当に零夜は今の五叶の存在を妹と言えるのかい」
神社でも似たような事を雨姉さんにも言われた。
「浮遊霊とか関係ない、五叶は俺の妹だ。だからおばあちゃん、五叶を祓うのは止めてくれ」
諦めきれずにおばあちゃんに頼み込む、雨姉さんは本気で五叶を祓うつもりのようだが、もしかしたらおばあちゃんなら聞き入れてくれるかもしれない。だがおばあちゃんは首を横に振る。
「すまんけど零夜、いくら零夜の頼みでも、それは聞けんよ。雨からも聞いただろ、霊を放置していると霊力が強くなって人を巻き込む可能性がある」
「だったら一体どうすればいいんだ。このまま何もせず、ただ五叶が祓われるのを黙ってるなんて、俺にはできない」
「五叶を祓わずに済む方法があるにはある。だが今からじゃ、とてもじゃないが間に合わないだろう」
「それでもいい、おばあちゃん。五叶を祓わずに済む方法が何かあるなら教えてほしい」
「五叶に霊力のコントロールを覚えさせるんだよ」
「霊力のコントロール?」
「雨と私が言ったように霊には霊力という物が存在する。そして霊力は日に日に強くなる。だが霊力のコントロールを覚えさせる事ができたら。その霊は危険ではなく祓わなくてもよくなり、自ら未練を探し成仏する事を許すとされている」
「だったらその霊力のコントロールを五叶に覚えさせる事ができたら、五叶を祓わなくてもいいって事だよね」
おばあちゃんの話が本当なら、その霊力のコントロールというやつを五叶に覚えさせる事ができたら五叶を祓わなくてもいいという事になる。
「だが霊力のコントロールなんてできる霊を、私は生まれてから見た事がないよ。とてもじゃないが後二日で、五叶に覚えさせるなんて事ができるとは思えないが、それでも零夜は諦めないかい?」
「俺は……」
諦めるなんて選択肢はない、五叶を祓わなくてもいい方法があるんだ。ならやってみるしかない。
「俺は諦めたくない」
「そうか、本当に零夜は甘いねぇ。もう死んでしまい、浮遊霊になってしまった五叶の事を、まだ妹だって言い張ってるんだから。全く一体、誰に似たんだろうねぇ」
おばあちゃんに古い日記帳のような物を手渡してくる。おばあちゃんは笑顔をみせると、ゆっくり歩いて蔵の中から出て家の中に戻っていく。日記帳には霊力をコントロールする方法が書かれていた。
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