第28話 前衛と青春

◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 当面の生活費を稼ぐために、二階層で〈夫〉と〈化け兎〉を狩っている、二人だけで三階層は危険が多過ぎる、少なくとも前衛がもう一人必要だと思う。


 「金札のクセに二階層か」と言うあざけりの声が聞こえてきそう、いいえ、現に聞こえたわ。

 人の命を何だと思っているのよ、ムシャムシャしちゃうわね。


 私の〈回復〉は、かなりのものだと思っているけど、二人だけのチームではその良さが発揮はっき出来ない、〈夫〉一人で同時に二頭を相手にするのは無理があるんだ。


 それなら、私が〈化け猪〉の突進を受け止めたら良いんだ、やってやるわよ。


 「〈化け猪〉なんかに負けないわ」


 「うーん、その目で射殺いころせそうだけど、ちょっと心配だな。 仲立ち所の食堂へ行ってみるか」


 「まあ良いけど、あんまり期待出来ないよ」


 「そうだろうけど、何事も試してみなくっちゃ」


 朝の食堂はそこそこの人数で、人員の補充を希望しているチームが多いことを匂わせていた。


 「パンに焼き魚か。 匂いが合わないのよ」


 パンのおかずが、焼いたサバみたいなお魚なの、はぁー、ありえないわ。

 チーズがあることは知っているわ、それをなぜ出さないのよ、イライラするわね。


 「ふぅん、お米が食べたいな」


 「あぁ、米があればな」


 「ふぅー、ほんとに。 たとえおかずがチーズだったとしても、暴れたりしないわ」


 ちょっと嘘をついてしまった、その時は焼き魚を出せとわめきそうね。


 私達のテーブルへ、三チームのリーダーらしき男が近寄ってきた、チームへ入ってくれと言う話だ、だけどその目はギラギラと鈍く光って見える。

 私の顔と胸をチラチラと見ている、すきがあれば、〈夫〉を殺して私を手に入れようとしている気がするな。


 どうしてなんだろう、なぜ迷宮に潜る男達は女に飢えているのだろう。

 場所は知らないけど、この町には娼館があるはずなのに。


 そうか、私は狩でも役に立つし性の処理でも役に立つから、一石二鳥の存在なんだ。

 最初はお客様あつかいでチームに入れてしまえば、後は暴力とかでしばりつけ飼い殺しに出来れば、すごくお得なんだね。


 はっ、誰がそんなものになってやるか、便利使いされて公衆便所みたいな女になってたまるか。


 〈夫〉もそれが分かっているから、金札を見せて追い払ってくれたわ、銀札の分際で私の胸を凝視しないでほしいな、少しは欲望を押さえなさいよ。


 「あれ、〈未来の一歩〉さんだね。 この前はありがとうございました」


 〈夜明けの明星〉のリーダーが、ニコニコしながら、声をかけてきた。

 たしか名前は、〈ゴオ〉と名乗っていたわね、透き通ったような笑顔が他の男達と比べたらすごくまともに見えるわ。

 私達が命を救ったから、恩義を感じていのためなのかしら。


 「〈夜明けの明星〉さん、おはよう。 チームが五人だから、後一人を探しているのかい」


 〈夫〉が当たりさわりのない会話をしている。


 「あっ、おはようございます。 探しているのはそうですけど、数は二人なんですよ」


 「んー、この前は五人いたはずだよな」


 「ははっ、それが大怪我を負ってしまい引退したんです。 今は四人なんですよ」


 私と〈夫〉は顔を見合わせた、試してみるかってことだ。


 「そうすると、俺達を勧誘しているってことかな」


 「ははっ、そうなんです。 俺達はまだ銀札なにの、金札のお二人に声をかけるのは失礼だとは思ったんですけど」


 言葉使いはアレだけど、なかなか礼儀があるじゃないの、この子は頭が良いと思うわ。

 元の世界の私から見ると弟のような年頃だけど、かなりしっかりしているし、ギラギラと欲ににごった眼をしていないわ。


 「ははっ、失礼なことはないさ。 〈未来の一歩〉は解散したから、良ければ〈夜明けの明星〉に入れてくれよ。 試しに何回か潜ってみないか」


 「へへっ、良いんですか。 それは願ったりかなったりです。 早速さっそく明日からどうですか」


 こうして私達は〈夜明けの明星〉へ加入することになった、


 〈夜明けの明星〉の四人は、リーダーが盾と剣を使う〈ゴオ〉だ、まだ若いのに〈技能―剛腕〉を持っている。


 サブリーダー的な立ち位置で、〈ルイ〉と言う同じく盾と剣を使う男がいる、〈技能〉は持っていないが、〈ゴオ〉と同様にはち切れんばかりの筋肉の持ち主だ。


 もう一人の男は〈トト〉と言う名前の少年だ、まだ子供のような顔をしている、この子の装備も盾と剣と言うことだ、ふーん、前衛の盾役が三人もいるんだ。


 魔物は一度に二頭しか出て来ないから、一人余分のような気もするけど、安全を確保するためには良いような気もするな、予備の盾があった方が良いと言う考えなんだろう。


 そして紅一点の魔法使いは〈ルル〉ちゃんで、サブリーダーの〈ルイ〉の妹ってことだ、〈暗闇〉の魔法を持っている、〈暗闇〉か、狭い迷宮では微妙な魔法だと思うな。

 見えなくても魔物は暴れると思うわ、いいえ、見えない分もっと暴れそうよ、なんと言ってもそれが魔物ってものよ、凶暴だからね。


 私と〈夫〉は、食べ物屋兼飲み屋の〈酔いのカラス停〉で〈夜明けの明星〉のメンバーに紹介された、メンバーは私達のことを歓迎してくれているようだ。

 みんなニコニコと笑顔で迎えてくれた、特に〈ルル〉ちゃんはとても嬉しそうにしている。


 「あの時は助けて頂いてありがとうございました。 女性は私だけだったので、すごく心強くなります」


 〈ルル〉ちゃんは可愛い顔をしていて二十歳くらいに見える、少しポッチャリ体形だけど、そこがまた可愛い感じの女性だ、私はちょっぴりキツイところもあるから、正反対ってとこかな。


 〈ルル〉ちゃんの視線を追うと、いつもリーダーの〈ゴオ〉の姿があるから、高い確率で〈ゴオ〉のことが好きなんだと思う。

 私は、へへっ、良い女だけど〈夫〉がいるから、〈ルル〉ちゃん的には恋のライバルにはならないから、私を歓迎してくれているのだろう。


 うふふっ、この世界にもちゃんと青春があるのね、私まで甘酸っぱい気持ちになってしまうわ。

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