第12話 仲立ち所と視線

◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 〈ラトさん〉夫婦と〈仲立ちなかだちじょ〉と言う機関へ、連れだって向かった。


 〈仲立ち所〉とは、簡単に言えば日雇いの仕事を紹介してくれる場所らしい。

 紹介の内容は、まず町の中で求められる力仕事とか汚れ仕事がある、これが大部分をめているようだ。

 ただし、この仕事ではあまりお金は貰えないみたいだ、危険じゃないからだ。


 他には隊商の護衛があるが、お金はそこそこ貰えるが、かなりの信用が必要らしい、たぶんコネ的なものが必要なんだろう、親戚とか友人とか人物を保証する人がいないと、とてもじゃないが怖くて雇えないのだろうな。

 護衛が強盗へ、早変わりでは目も当てられない。


 まあ、〈妻〉を襲いそうになったヤツがいるくらいだから、ヤクザな稼業かぎょうなのは間違いないと思う


 そして最後は、〈洞窟の迷宮〉へ潜って魔物を狩る仕事だ、これが一番儲かるが、一番死んでしまうって事だ。


 ここの迷宮は二級だから〈化け鼠〉が二匹同時に出てくるんだ、それは本当に危険だと思う、二匹の動きを同時に見る必要があるため、難易度は一匹の時と比べて二倍ではまない、何倍にも跳ね上がるはずだ。

 〈等級〉を上げられない人ばかりなんだから、ちょっとした油断や体調不良で、サクッと命を落としてしまうぞ。


 〈仲立ち所〉はおおむね二種類の人間であふれていた、〈汚くみすぼらしい目がうつろな人達〉と、汚れているのは一緒だけど、〈目をギラギラさせた野獣みたいな人種〉に別れている。


 〈汚くみすぼらしい目が虚ろな人達〉の方が圧倒的に多い。

 〈野獣みたいな人種〉は、よろいかローブに身を包んで、みすぼらしい人達を見下げているのを隠しもしない、人の足をりながら歩いている男もいるし、扇子せんすで腕を叩いて場所を開けさしている女も見えた。


 異様なオーラを放っているのは、日常的に命のやり取りをしているせいだな、自分達は他の人間とは違うと言う自負心と言うか、ものすごい矜持きょうじがあるんだろうな。


 「おっ、家族総出で登録とは、村から逃げてきたんだな。 若いのはともかく、年寄りじゃ直ぐに死ぬぞ。 本当に直ぐに死んでしまうんだ、迷宮じゃなくて日雇いにした方が良いんじゃないのか。 俺は今忠告したからな」


 おぉー、一発でバレたよ。村から逃げ出すのは良くあることらしいな。


 「えぇ、そいつは分かっていますだぁ。 何とか生き延びてみますよぉ」


 「分かっているのなら良い。 コイツはこの迷宮の〈登録証〉だ。 最初は木札で、一階層を抜けたら鉄札になる。 まあ、関係ないか。 もし〈化け鼠〉を狩れたら買い取りは向こうの窓口へ行けよ」



 俺達は早速〈二級の迷宮〉へ潜ってみることにした、ここの迷宮の名前は何のひねりも無く、〈カカラッゼの迷宮〉と言うらしい。


 町から歩いて三十分くらいの所に、迷宮の入り口がポッカリと空いている、入り口には見張りの兵士が三人立っていた、俺達はそれぞれ木札を見せて迷宮へ入っていくが、〈妻〉を見る兵士の目が気になるな。


 迷宮に潜る女性の中では、〈妻〉は良い女なんだろう。

 若返ったため、まだあどけない顔のくせに、ムッチリとした体つきだからな。

 少しはいるのかも知れないが、若くてまともな女は一人も見なかった、いた女性は何と言うか一癖も二癖ひとくせもふたくせもありそうな女性ばかりだった。


 負けずおとらず、男もそうなんだけどな。

 〈妻〉の体をジロジロ見ていたし、何人かは俺の尻を見ていたよ。


 迷宮に潜っている女性達は、驚くほどゴッツイ体をしているか、毛皮のローブをまとった剣呑けんのんな目をした女性しかいない、剣呑な目と言うのは少しの狂気をはらんでいると言うか、世の中の全てを憎んでいる目だと思う。


 俺と〈ラトさん〉は鉄の鎧を、〈妻〉と〈ミトさん〉は毛皮の服のままで、迷宮に入っていく。

 入っても周りには誰もいない、迷宮に潜る人間が少ないってことだ、本当に直ぐ死ぬんだろう。


 俺と〈妻〉も村の迷宮が一級だから何とかなったけど、二級だったらもうこの世にいないのは火を見るより明らかだ、俺の尻がいかつい男達に狙われているのと同じくらい確かな事だ。

 ねっとりとした視線が、顔や尻をなぞってくるから、ゾッとしてしまった、〈妻〉も心配だが自分の心配も必要なんだよ。


 周囲に気を配りつつ、ごつごつとした洞窟を慎重に歩いていくと、〈化け鼠〉が忽然こつぜんと現れた、何の迷いもなく俺達の方へすごい勢いで迫ってくる。

 どうしてと思うほど、憎しみでのこもった目だ、コイツ等の仲間を沢山殺あやめているのは確かだ。


 魔物がどこから来るのか分からない、湧いて出るってことだろう。


 二匹の〈化け鼠〉は少しだけ知恵があるのだろう、それぞれ同時にガッと左右の壁を蹴り、俺達へ跳びかかってくる、ただ壁を蹴るのは予想出来た動きだ、俺と〈ラトさん〉はそれぞれ近い方の〈化け鼠〉に槍先を向けて対処する。

 〈妻〉は俺の後ろに隠れながらも、〈化け鼠〉に槍を向けているが、〈ミトさん〉は〈ラトさん〉の後ろに回るだけで精一杯のようだ、でもこれは作戦の範囲内だからそれほど問題ではない。


 俺の方へ跳んできた〈化け鼠〉は、「ギュ」と鳴き素早い身のこなしで槍先を何とか交わしたが、無理やりな動きのため体勢を大きく崩している、そこを〈妻〉の槍が容赦ようしゃなく突いて後ろ脚にかなりのダメージを入れられた、致命傷では無いが初回ならこんなもんだろう。


 足を引きずりながら、また壁を蹴ろうとした〈化け鼠〉の背を、俺は余裕を持ち突き刺すことが出来た。

 怪我を負って素早い動作が出来ないくせに、また壁を蹴ろうとすきを見せるとは、あまり頭がよろしく無いらしい。


 〈ラトさん〉の方も同じ様に、槍を交わされてしまい、〈ラトさん〉の足に噛みつこうとしたらしいが、丈夫な歯をもってしても鉄の鎧には歯が立たなかったみたいだ。

 〈ミトさん〉が浅くだけど腹を突きさして、〈ラトさん〉が今止めを刺そうとしている。


 〈カカラッゼの迷宮〉を総括そうかつすると、〈等級〉を上げた俺達が鉄の鎧を装備したなら、それほど問題は無いってことだ。

 二級の迷宮でも一階層なら何とかなる、後は〈化け鼠〉がどれほどの稼ぎになるかにかかっているな。


 〈仲立ち所〉の窓口に、早速狩ったばかりの〈化け鼠〉を二匹納品すると、百シリンで買い取りをしてもらえた、〈シリン〉とはくすんだ黄色の硬貨だ、混じりが多い銅貨なんだと思う。


 二十シリンで、朝夕二食が提供される平均的な宿に泊まれるらしいので、かなりの儲けだろう。


 「うわぁ、〈化け鼠〉が二匹で、こんなに稼げるんだ。 それなのに、あの村のヤツラはイモしかくれなかったわ」


 〈妻〉もいきどおりを覚えているが、俺も同感だ、とんでもなく搾取さくしゅされていたんだな、ほとんど奴隷状態だったんだ。


 儲けは、〈ラトさん〉と五十シリンずつ半分に分けて、木賃宿から普通の宿に変わることにした、夫婦で一部屋にしたからゆっくり出来るはずだ。

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