第4話

「なんにせよ。しかるべき機械がないとそこは調べられないよ。それよりこっちを見てみない?」


カルパに促されて、フィトは大きい円を見た。


 大きい円には、3つの椅子にそれぞれ対をなすように、溝でかたどられた2つの四角形があった。


 一方の四角形は大きめで、椅子の真正面に、もう一方はその右にあって、真四角の形をしていた。


 どちらの四角形にも中には溝で絵が描いてあって、大きめの方はすぐにはわからなかったが、その右にある真四角の方に描かれているものはすぐにわかった。


「手形…だよな。ここに手を置くのか?」


「だろうね。3つともあるから」


 フィトは、あとの2つも見て確認しようとしたが、立っていた場所からは確認することができなかった。


 しかし、カルパを疑っているわけでもないのでわざわざ動くことはせず、もう一方の大きめの四角形に話題を変えた。


「こっちは何が描いてあるんだ?」


「ええっとね。それぞれ違うものが描かれていて、説明書きがある壁の方は〈頭〉、入口の方はわからなくて、残りが〈腕〉じゃないかって」


「これが〈腕〉か」

溝で簡潔に描かれている絵は、〈腕〉と言われて初めてイメージができるものだった。


「―これの意味はわかってるのか?」


「ん~、〈担当〉…なのかな。説明書きにそれらしい言葉が書いてあるって。つまり〈腕〉を担当する人がここに座るってことだね」


「担当かぁ。…なら〈頭〉はカルパで決まりだろ?…あと1つは何だろうな」


 フィトが、入口側の椅子の方へ移動した。


「なんだこれ。ただの落書きじゃないのか?」


 入口側の絵は、ごちゃごちゃしていて何が何だかわからなかった。〈腕〉の絵とは溝の多さが段違いだ。どうしてこんなことになったのだろうか。


「ノートにも、これは後回しって書いてあるよ。説明書きを読み進めれば、わかるかもしれないからって」


「そうか。そういうことなら、悩んでも仕方ないな。クエタここでいいか?」

「うん~、いいよ~」


「じゃあ座って」


そう言われて、クエタが口をモグモグさせながら、ゆっくりテーブルに歩み寄った。


「えっ?ちょっと待って。儀式の真似事でもしようっていうの?」


 カルパが驚くと、フィトがあっけらかんとして返した。


「そりゃあ…そのために来たんだろ?」


「違うよ?誰が何のために作ったのかもわからないのに、遊んじゃ駄目だよ。その人にとっては神聖な場所かもしれないんだよ?」


「大丈夫だって。なんか…そんな真面目なフインキここにはないもん。それに、そういうのは気持ちの問題なんだから、バレなかったら誰も嫌な思いしないって」


「いや、そういう考え方は…」


 カルパが反論しかけたが、フィトは聞く耳を持たなかった。


「ほらっ、〈頭〉はあっちだろ。回って回って」


 気乗りしない様子は変わらない。だが促されて、カルパはテーブルを回り込んだ。


 その間にフィトは、〈腕の席〉に座り、手形に自分の手のひらを合わせていた。


「ここに手を置いて、みんなで呪文を唱えたりするのかな」


「呪文か祈祷文か知らないけど、それらしい文言はノートには書いてないよ。必要ないんじゃない?」


「え~。そんなのフインキ出ないじゃないか」


「呪文ばかりがフインキの出し方じゃないってことでしょ。…そもそもフインキって何?そんなのいる?」


「いる!フインキは大事。呪文も大事。…てかこれ、俺の手とピッタリ合うんだけど」


話は変わって、手形のことだ。


「―クエタはどうだ?」


「ボクもだよ~」


クエタが〈何かの席〉に座って言った。


 さて、その手はきれいではないだろう。あとで掃除させなきゃ。カルパはそう思いながらも、手形には興味を持っていた。


「…確かにノートには、『手形は小さめ』って書いてあったけど」


カルパが〈頭の席〉に座って、手形に手を置 いた。


「―僕もピッタリだ。…でも変だよ。僕たちの手の大きさだってバラバラなのに、どうして―えっ?なんだこれ!うわぁ」

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